ハジメの一歩
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「な。んで、そーいう事になるのよ。だいたいオマエ、いつの間に呼び方変えやがって」
「うん? あ、ほら、月曜日に【きたいわ屋】に行った時。キタガワくんがホノちゃんって言った時あったでしょ。あの響きが気に入っちゃってさぁ。
今日ハジメちゃんが来る前に、ちゃんと許可は得てます(笑)」
偉そうにふんぞり返る勇実がにくたらしい。ホノカを見た。そうなんですと小声で、恥ずかしそうに肩を竦めた。
「ホノちゃん、の方がちょっと短くて呼びやすいかなぁ、というのもある。
ハジメちゃんも実はそう思ってない?(笑)」
げ。何で分かるんだ、コイツ。
そう、ホノカちゃんってちょっと長いな、なんて思ってた。
でも、このタイミングで? 俺、アヤシクない?
うーん、と考えあぐねていると、
「好きなように呼んで下さい」
横からホノカが言った。それで俺の決心はついた。
「そう? じゃあ…ホノ、ちゃんで」
「えっ? あっ…ハイ、そうして下さい。ハジメ、さん」
ホノカはビックリしながらそう答えた。好きなように、というのはおそらく【ホノカちゃんのままで構わない】っていう、ホノカの気遣いだったんだろう。
「お。海が見えてきたぞ。この辺りは知ってるの? ホノ、ちゃん」
「いえ、実は初めて来ました。ハジメ、さんは?」
たどたどしく、呼び合う俺達。ホノカがサラッと呼べない気持ち、今頃分かった。
でもこのたどたどしさが、俺達の距離をほんの少しだけ縮めてくれた気がする。
ホノカの俺に対する空気が変わったのを、確かに感じた。
「二人とも、ぎこちないですねぇ。どう思いますか、タツミさん(笑)」
「それはね、時間が解決するんじゃないでしょうか、イサミさん(笑)」
勇実とタツミくんの面白半分な実況ごっこにも、不思議と腹は立たない。
工業地帯を抜け、電車は海沿いを走り始めた。目的地の浜辺まで、あと少し。
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