ハジメの一歩

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 浜辺に向かう電車の中で、俺達は呼び名の話で盛り上がった。

 ブルーのシートに端からタツミくん、勇実、ホノカ、俺の順で座っている。

「ハジメちゃん、ホノちゃんに店長なんて呼ばせてるの? 似合わないなぁ(笑)」

「うるせ。実際店長なんだから、間違っちゃいねーし」

「あ、いや、私が勝手に呼びそうになってるので…
 名前で呼んでって言ってくれてるんですけど、やっぱり慣れなくて」

 ホノカが少し恨めしげに俺を見ながら言うのを聞いて、へえぇ、とキタガワスマイルをする勇実。

 絶、対変な事考えてる。こういうところ、やたらキタガワと気が合うから、最近は勇実とキタガワが姉弟じゃないかって思ってしまう。

「ハジメー、さんだって(笑) ふふっ、ホノちゃん、もっと気楽に呼んでいいんだよ。ハジメちゃーんでいいんだよ(笑)」

「えええ」

 それはムリ、と言わんばかりのホノカの焦った顔。

「勇実じゃねーんだから。考えたらオマエ、初対面からハジメちゃんだったよな? 失礼なヤツ。3コも上なのにさぁ」

「ええ? だってそれは、ハジメちゃんが好きなように呼べって言ったからでしょう?
 ハジメちゃん、全然年上っぽくないし(笑)」

 そこへタツミくんが、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべて割り込む。

「ふーん? 俺にも初対面でくん付けだったのは、そういった理由? ふたつも年上なのに(笑)」

「なっ。いや、タツミくんはね、ほら。同じ誕生日だから。親近感が湧いたっていうか。
 もう! 私の事はいいから。今はホノちゃんがハジメちゃんをどう呼ぶかなの」

「あ、あと俺達の事も。好きに呼んでくれていいからね(笑)」

 タツミくんに言われて、ホノカはハッとして、俺達を見回して、頬を赤らめながら、

「あ…じゃあ…ハジメ、さんに…タツミさん…」

 順番に呼んでいく。

「くくっ。もう少し、つっかえないで言ってみようか(笑)」

「あ、はぁ、すみません。努力します。
 それから…イサミさん…? うーん…なんか…」

 勇実を呼ぶ番になって、ホノカは考え込んでしまった。

 分かる。勇実も俺と同じで、年相応に見られないからな(笑)

 すると、タツミくんが身を乗り出して、ホノカに言った。

「イッサでもいーよ(笑)」





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