ハジメの一歩

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「あー、ホノカちゃん? ちがう、ちがうから。
 いや、あの味噌出せたのは確かにキミの一言のおかげだけど。
 前の味噌を終わりにするのは、何の未練もなかったよ。
 だからキミが、責任感じる事ねぇのよ。な?
 むしろ新しい味噌を推したの、キタガワだよな? さっぱり味噌が無くなった責任、オマエにもちょっとはあるんじゃねぇの(笑)」

「えーっ! にーさん、ひどっ!」

 俺の言葉を聞くと、ホノカは顔を上げて、キタガワの後頭部をグッと下へ押した。

 そして、自分もまた頭を下げて、

「この度は私とこの北川のアホのせいで、お三方の大事な味を変えてしまって…ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。
 ほら! アンタも頭を下げるの!」

「イタイイタイイタイ! もう下げてるし! ちょ、今ゴキッていった! 首折れちゃうからー!」

 当人達は至って本気なんだろうけど、どうしても漫才に見えて、俺はおろか勇実とタツミくんも、笑いが止まらない。

「イテテ…ちくしょー。ホノカの馬鹿ヂカラ。覚えとけよ。
 あっそうだ、ホノカ、朝のしか聞かないから知らないだろ、オレ、タツミさんのラジオ番組に出たんだぜ。
 どーだ、羨ましいだろ」

 小学生みたいな仕返しだな、キタガワ(呆)

「はあ? ウソばっかり。え、ウソでしょ? え、ホント?」

 キョロキョロと俺達を見回すホノカ。

「ふふ。ホントだよ。ほら、今ラジオで流れてるヤツ。毎週月曜日、この辺りでしか聞けないから、知らないかな。
 先週ね、番組中に出前して、キタガワくんに届けて貰ったんだよ(笑)」

 タツミくんがクスクス笑いながらホノカに説明をする。

「そうなんですか。知らなかった。私、北川に呼ばれない限り、こっちの方には滅多に来ないから…
 わざわざ自慢して北川、アンタ性悪」

 ホノカに鋭い一瞥を受けるも、べーっと舌を出してキシシと笑うキタガワ。だから、コドモか。

「予想以上に、楽しい子だね?(笑)」

「そーだねぇ(笑)」

 な。おもしれーだろ? 特に、キタガワと一緒だと。

 くっくっと肩を振るわせて、ホノカとキタガワのやりとりを眺めた。



 やっぱり…ホノカに対する感情は、恋には発展しなさそうだ。

 この時の俺はそう思った。





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