ハジメの一歩

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「あの。あの。あの。
 握手、して頂けませんでしょうかっ」

 顔を上げたホノカは、突然教師に指されて立ち上がった生徒みたいに慌てふためいて、でもきっちり握手を求めた。

 そんなホノカにタツミくんはニッコリと笑って、

「もちろん。朝、聞いてくれてるんですか? ありがとう」

 手を差し伸べた。ホノカはその手を両手でしっかり包んで、くぅーっと、あの少年みたいな笑顔を見せた。

 俺の新しい味噌を食べた時も、その顔してた。それをするのは、お気に入りを見つけた時だって思っていいんだろうか。

「はっ…でも、どうして? てんちょ…ハジメ、さんのお友達って言いました?」

 突然タツミくんの手を空中で離して、ホノカは俺を見た。

「うん。話せば長くなるんだけど…
 コイツ、勇実が昔うちでバイトしててさ。勇実の彼氏がタツミくん。
 勇実が抜けた後、しばらくバイトは雇ってなかったんだけど…やっぱキツくなってきてさ。
 募集かけて、引っかかったのがキタガワ(笑)」

「へえぇ…そうだったんですか。
 …あっ、申し遅れました、私、近藤帆乃夏です。北川とは高校の時の同級生です」

 勇実とタツミくんを交互に見て、また深々と頭を下げた。

 今度は勇実とタツミくんが顔を見合わせて、ぶはっと吹き出した。

「ホノカちゃん、初めまして。小山勇実です。
 ハジメちゃんも言ったけど、2年位前にここでバイトさせて貰っててね。
 今は資格を取って、マッサージの仕事してます。
 私も、タツミくんも、ハジメちゃんにすっごくお世話になったの。
 だからね、ハジメちゃんの味噌を変えたホノカちゃんがどんな子なのかなぁーって、ずっと気になってて。
 ちょっと、キタガワくんに協力して貰って、こうして逢わせて頂きました(笑)」

「えっ」

 勇実の話を聞いて、ホノカは今度は俺とキタガワを交互に見る。

「そーだぞぉ、ホノカ。ホノカがあのラーメン美味いって言っちゃったから、お二人のお気に入りだったさっぱり味噌が消えてなくなっちゃったんだぞぉ」

 キタガワが大袈裟にホノカを煽る。

 なにウソぶっこいてんだか、ホノカにどつかれるぞと思っていたら、肝心のホノカは、

「あああ…もう…なんかもう…ゴメンナサイ、私のせいで」

 この世の終わりみたいな顔を両手で覆って、うなだれていた。





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