encourager

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 突然のプロポーズ。

 嬉しいに決まってる。

 でも、結婚なんてずっと先の事だって思ってた。

【ずっと横に】

 それを意味するものは、私とタツミくん、おんなじだろうか?

 タツミくんの気配をずっと感じられる。

 タツミくんの言葉をずっと傍で聞いていられる。

 手を伸ばせばすぐタツミくんのぬくもりがある。

 家で待っていれば必ずタツミくんが帰ってくる。

 その距離に私が居たい…

 次々と出てくる欲と、それが叶うんだっていう幸福感に、私は押し潰されそうになった。



「ふ…



 …うぅ…



 …ヤバいなぁ…





 ……涙が、出るや…」



 天井がじんわりと滲んで、私は手の甲で両目を覆った。

 喉の奥が詰まって少し苦しい、でも大丈夫、嬉しさ故のものだから。

 手首の筋を伝って、私の涙が流れた…





 しばらくそうしていたら、玄関の鍵がガチャガチャと回って、扉の開く音がした。

 私は、手をどかせない。

 気配が近づいても、そのままでいた。

 ベッドがギシッと軋んで揺れると、

「イーッサ」

 いとしい彼の声が上から降ってきて、そっと両手を剥がされた。

 目の前には、大好きなタツミくん。

 私の涙の跡には気付かないフリをして、

「ただいま」

 私の両手を私の顔の横に軽く押さえながら、極上の笑顔をくれた。

「──おかえりぃ」

 起きようと思ったら、押さえてる手をどけてくれないタツミくん。

 肘をL字について、まっすぐ私を見下ろした。



「ねぇイッサぁ。



 返事



 言葉でちょうだいよ?」



「あ…」



 うっかり。あれで全てじゃないよね?

 私は静かに息を吐いて、タツミくんにありったけの想いを込めて伝えた。





「タツミ?



 あいしてる…



 ずっと横にいて……」










encourager〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2016年2月1日~14日

[改稿終了日]
2021年6月23日






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【encourager】あとがき





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