encourager
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タツミくんという人は、出逢った頃から、背中を押すのが上手な人なのだ…
それは決して乱暴にではなくて、やさしく、手を添える程度の…
ノリちゃんとシンジさんの事情を何故知っているんだろう? 疑問は沸いたけれど、明らかに二人へ向けたであろうこの歌を聴いて、私の胸はじんと熱くなった。
「どうも、お粗末様でした」
歌い終えて深々と一礼するタツミくんに、聴き惚れてしんとしていたゲスト達の拍手が、ぶわっと降り注いだ。
そんな中、
「ノリコ」
突然後ろから声を掛けられて、ノリちゃんも私もビックリして振り返った。
シンジさんだった。
「シンちゃん…」
ノリちゃんの目には、涙がうっすら浮かんでいた。
シンジさんの、何か決意したような真剣な瞳に、どう応えていいか迷っているようだった。
タツミくんの歌を聴いている間ずっと私の手を握っていたノリちゃんの手を、私はそっと剥がした。
「イサミちゃんっ」
ノリちゃんが小さく叫ぶ。
「ノリちゃん…がんばれ。
シンジさん…がんばって」
ノリちゃんの手を下から支えて、私はシンジさんに差し出した。
シンジさんはくしゃっと顔を崩して、私に深く頭を下げると、ノリちゃんの手を取って会場の隅へ移動していった。
シンジさんに引かれながらノリちゃんは私をずっと見ていたけど、【ありがとう…】と、聞こえなかったけど口の動きでそう言ったのが分かった。
【──さぁ、引き続きプログラムを進めさせて頂きます。次の演奏は──】
あれっ? MCがまだタツミくんに戻ってない?
ステージにもDJブースにもタツミくんの姿はなかった。
キョロキョロと見渡していると、急に肘を持ち上げられて、
「ひゃ…っ」
と叫びそうになったところを、シイッと唇に人差し指を押し当てられた。
「イッサ。俺俺」
タツミくんだった。
ヒソヒソ声で喋るので、つられて私もヒソヒソ声になる。
「えっ? タツミくん? なんで? どうしてここにいるの? どうしたの?」
「あのね。
俺の今日の仕事、これで終わりなの。
残りのプログラムは、代わりのDJが引き継ぐから。
イッサ、行こ?
イッサと行きたい場所がある」
タツミくんはもうすでに外に出る格好をしていて、ビックリ顔の私を見て柔らかく笑った。
…