encourager
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戸惑い顔のノリちゃんを、ステージへ近づけていく。
他のゲスト達が立ち塞がって少し距離はあるけれど、だいたいタツミくんの真正面になる所まで来れた。
「ありがとう、温かいご声援、ありがとうございます(笑)」
ギターのチューニングをしながらタツミくんが頭を下げるのを、ゲスト達はクスクスと笑みをこぼしながら見守った。
一通り準備が終わって、再びタツミくんの声がマイクを通る。
「えー…なんだか…
路上時代を思い出します(笑)
こうしてね、皆さんの前でギター構えて…
何歌おっかなー、なんてね(笑)
一応サプライズということなんで…
こうしてる今も…
歌う曲決めてないんですけど(笑)…
──即興でも、いいですか?」
わっと盛り上がる歓声と共に、私の背中がゾクゾクッと震えた。
こう言った時のタツミくんは、必ず素晴らしい歌を作るのを、私は知っているから。
静かなアルペジオを奏でながら、
「曲名は
【鼓動】」
タツミくんは、新しく生まれる歌を、口ずさみ始めた…
【鼓動】
僕の中で刻む音
カチコチカチコチ…
君の中で刻む音
チクタクチクタク…
まるで時計みたい
繋いだ手から伝う
心地よい旋律
僕と君は違うから
音階も律動もてんでバラバラ
僕と君は違うけど
違うからこそ生まれる
新しい息吹
秒針に重い荷物が
引っ掛かってるみたいだ
取っ払えたらラクなのに
捨てられない荷物
刻む音が狂ってゆく
ギクシャクギクシャク…
重なってた音が
いつの間にか無くなって
カチコチカチコチ…
ひとつの音だけ
空しく響いた
刻む音は心に直結
崩れた音階緩い律動
その中のほんの僅かの
弱々しいんだけど
規則正しい素直な音
それにばか正直に
応えてみない…?
さあ手を伸ばして
さあその手を取って
カチコチカチコチ…
チクタクチクタク…
前の旋律と違っちゃったけど
カチコチカチコチ…
チクタクチクタク…
新しく生まれたその旋律を
また一から育ててゆこう
カチコチカチコチ…
ゆっくり溶け合って
チクタクチクタク…
温もりを放つ
僕と君は
刻む音を合図に
新たな一歩を
踏み出そう…
…