encourager
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「イサミちゃん、私、シンちゃんが終わったら…帰るから」
ステージ上のシンジさんをじっと見つめながら、ノリちゃんは言った。
1グループ毎に2曲演奏する、今回のプログラム。
【model plane】の1曲目は定番のクリスマス曲をアレンジしたもの、2曲目はオリジナルバラード、新しい環境へ踏み出す人への応援歌。
ベースのシンジさんは、サビの部分でツインボーカルを努めた。
ノリちゃんに向けたメッセージ…
ノリちゃんに込められた想いが、第3者の私にさえこんなにも伝わるのに…
二人は…別れるしかないの…?
ハイテーブルに置かれたノリちゃんの手が微かに震えているのが見えて、私はその上に自分の手をそっと重ねた。
ノリちゃんは私を一瞬見て、またシンジさんを見つめた。もう片手を自分の胸に宛てて、そっと息を吐いた。
色んな感情が巡っているんだろうと思って、私は何も言えなくて…歯痒かった。
【model plane】の演奏が終わって拍手が降り注ぐ中、
「イサミちゃん…元気でね。タツミさんによろしく。
…いつまでも、仲良くね。
また…連絡するね」
ノリちゃんの手が私の手からスルリと抜けて、脱いでいたコートを羽織って出口へ向かって歩き出した。
【──ありがとうございましたぁ、【model plane】のみなさんでした。
さて! イベントも中盤に差し掛かったところで…
我らがMC、ラジオでお馴染みの後藤樹深さんの演奏を挟みたいと思います!】
あれっ? 進行がタツミくんじゃなくなってる? とステージを振り返ると、タツミくんが愛用のフォークギターを肩に提げてDJブースから出てきて、マイクスタンドの高さを調整していた。
タツミくんも演奏するとは聞いていたけれど、何番目にやるかは本番まで秘密で、プログラムにも書かれていなかった。
タツミくん曰く、「俺がここで出る! って思った時に出るから(笑)」という事だった。
地元では人気者のタツミくん、彼のステージでの登場にゲスト達の熱気が一気に上がった。
その時、タツミくんと視線が絡んだ。
大きな、真剣な瞳。
何かを訴えている、合図。
私は…
……
ノリちゃんを帰してはいけない。
ゲスト達の歓声に驚いて立ち止まっているノリちゃんの手首を掴んだ。
「!
…イサミちゃん?」
「ノリちゃん…待って…
…タツミくんの歌、聴いてって…?」
…