encourager
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【──ご来場の皆様、大変お待たせしました。
只今より、クリスマスイベントライブを始めさせて頂きます。
お食事やドリンク、低価格でご提供致しております。よろしかったら、是非ご賞味下さい。
申し遅れました、わたくし、本日の主な進行をさせて頂きます、後藤樹深です──】
18時になり、タツミくんのMCが始まって、会場の熱気が少しずつ上がってきたのを横目に、
「え…え…え?
なんで? どうして…?」
「イサミちゃん…動揺し過ぎ(笑)」
ノリちゃん達の現状を飲み込めないでいる私。
「だっ…て、あんな、仲良かったのに…」
「イサミちゃん…」
ノリちゃんの瞳がゆらりと揺れた気がした。でもノリちゃんは明るい声で、
「ね、ごはんと飲み物取りにいこ?
食べながら…話させてくれる…?」
と言って、私の手を取った。
会場は立食式だけど、ゲスト用に幾つかハイテーブルが置かれていたので、隅の方のひとつを陣取った。
食べ物を取ってきたけど、私達は手付かずで、ノリちゃんがポツポツと話すのを私は聞いていた。
「私もシンちゃんも、春から社会に出て…ううん、その前から研修とかでお互い忙しくて…
連絡も取りづらくなっちゃって…やっと逢えても、ケンカばかりだったの…
疲れた顔ばかり見せて、逢っても嬉しくないんじゃないの? って…
でね…その内にね、私に異動の話が来て…新人は必ず通る道だから仕方ないんだけど…
年明けの連休が終わって少ししたらね、行かなきゃならないんだ。○○県」
「えっ!?」
○○県、すっごく遠い。飛行機を使わないと行き来できない所。
「またいつ戻れるか分からないし…シンちゃんともそんなだし…
シンちゃんとは、2年半付き合ってきたけど…
……
……
遠距離は、無理だから。
シンちゃんと何度も話して…別れる事にしたの」
「ノリちゃん…!」
大丈夫だよ。距離なんて何ともないよ。私とタツミくんは平気だったよ。
言いかけて、私は飲み込んだ。
それは、とても安易な言葉…ノリちゃんには届かない気がした。
「この前お店に顔を出したのはね…イサミちゃん達とも、多分もう逢えないから…」
「ノリちゃん! 離れても…友達だよ。これからも、連絡取り合っていこうよ…」
ノリちゃんは私の言葉に頷いた。
シンジさんにも…こうは出来ないんだろうか。
「…あっ、次、シンちゃんの番」
ノリちゃんがつぶやいたのでステージの方を見ると、シンジさんのバンド【model plane】が演奏の準備を始めている所だった。
…