encourager

12/22ページ

前へ 次へ


 結局お風呂には一緒に入った。

 お風呂から上がって、髪の毛をタオルドライしながらベッドの縁に並んで座る。

「あ、そうだ…ねぇタツミくん、ノリちゃんって覚えてる? 話したことあったっけ」

「ウン? あー、昔イッサと一緒にバイトで入ってた受付の子だよね? 分かるよ」

「そのノリちゃんがね、こないだお店に顔出してくれてね、色々話してたんだけど…
 明後日のライブに、ノリちゃんの彼氏が入ってるバンドも参加するって言ってたんだよ」

「え、ホント? バンドの名前分かる?」

 そう言ってタツミくんは一旦ベッドを離れて、バッグから資料を取り出した。ペラペラと捲って、出演者一覧のページで止める。

「あ、そういえば聞かなかった…」

「(笑) じゃあ彼の名前は?」

「苗字分かんないんだけど…シンジさんっていうの」

「シンジ、シンジ…あった。【model plane】のベース、沖慎司。この人かな」

 そのバンドの所までタツミくんの指が滑っていった。バンド名だけじゃなく、全てのメンバーと担当パートも書かれていた。

「このバンド、駅前の広場で週末に演ってるんだよね。なかなかいい音出すよ」

「そっかぁ、昔ノリちゃんがそんな事を言ってたっけ。ずっと続けているんだね」

「イッサ、そしたら当日はそのノリちゃんと一緒にいる感じ?」

「うん多分。タツミくんが終わるまで待ってるからね…」

「ウン…そっか…ウン…わかった」

 なんでかタツミくんは何度も頷いて、含み笑いをした。

 こういう時、タツミくんは何かしら企んでいるのだけど…

 この時の私は特に気に留めず、明日いっぱいでマフラーを完成させなきゃという思いで占められていた。

「イーッサ。寝よ?」

 タツミくんがベッドに潜り込んで、掛け布団を少し捲って私に入るように促した。

「え、ダメだよ」

「また即答?(笑) なんでよ」

「だから、狭いってば。私はソファーで寝るから。タツミくんはお客様だから、ベッド使っ…うわっ」

 言い終わらない内に、タツミくんにベッドに引きずり込まれた。

「他人行儀…」

 私をふんわりと抱きしめながら、タツミくんは耳元で囁いた。

 ズルいなぁ…ゾクゾクするじゃん…

「…なんもしない?」

 タツミくんの胸に埋もれながら、上目遣いで言う。

「はぁー…そんなカオで言われると、ズルいんですけど…
 まぁ、誠意は見せましょうかね。
 なんもしないから…湯たんぽになって?(笑)」

「…はぁい(笑)」

 寒がりのタツミくんは、お風呂に入ったのにもう体が冷えていて、私のぬくもりを求めた。

 ひとつの布団の中で、寝巻き越しに、タツミくんの体が私の熱を奪っていく…

 私の体温とタツミくんの体温がおんなじくらいになった頃、私達は深い眠りに落ちた。





12/22ページ
スキ