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(★)

 クリスマスイブ2日前の夜。

 タツミくんが私の部屋に泊まりに来る事になっていた。

 私は仕事を終えてすぐに帰って、タツミくんが来る前まで、もうひと息で完成のマフラーを編んでいた。

 すごく集中していたので、【今からそっちに向かうよ】というタツミくんのメッセージに気付かず、突然インターホンが鳴った時は心臓が飛び出るかと思った。

「まって、まって」

 私は慌ててマフラーを紙袋に突っ込んで、それをタンス代わりにしている衣装ケースの奥にしまった。

 玄関に向かったけれど間に合わず、ガチャガチャと鍵のサムターンが回ってタツミくんがドアを開けた。

「イーッサ? どうした?」

「おっ、おっ、おかえりなさいっ」

 渡り廊下を駆けた勢いで、まだ靴を履いたままのタツミくんの胸に飛び込んでしまった。

「メッセ既読付かないし、インタホンにも出ないし…寝てたんでしょ。遅くなってゴメンね」

「へ? あ、うんそう。寝てた。ゴメンね。あははぁ。お疲れ様、タツミくん」

 タツミくんの手を引いて奥へ通す。

 私の部屋は10畳の1K。光熱費水道代は家賃に含まれていてタダ、テレビ冷蔵庫洗濯機は元から付いていた。

 私が持ち込んだ物はシングルベッド、二人掛けのソファー、三連のカラーボックス、衣装ケース、小さな円卓、CDラジカセ。

 狭いから、タツミくんが窮屈になると思ってなかなか私からは呼べないけど、時々こうして「イッサん家泊まっていい?」と言ってくれる時は、喜んでタツミくんを招き入れた。

「泊まるのOKしてくれてありがとうね」

「どういたしまして。明日は朝からイベントの準備で籠るんだったよね。うちからの方が近いもんね(笑)」

「ウン。明日はそのまま徹夜の予定…クリスマス前にイッサに逢うとしたら今しかなかったです(笑)」

「ふふっ…あ、お風呂入る? 一応準備はしてあるよ」

「そう? じゃあ頂こうかな…」

 キッチンにあるパネルの追い焚きボタンを押した所で、後ろからタツミくんに袖を引っ張られた。

「…ね、一緒に入ろうよ」

「へ? ヤダよ」

「え、即答?(笑) 傷つくなぁ」

「だって、狭いよ。二人でなんてムリ…」

「イーッサ」

「わ…」

 途中で遮られて、キスをしながらタツミくんが私をソファーの背もたれに押し倒した。

 ギシッとソファーが軋む間、私とタツミくんの衣類がそっとソファーから落ちる。

「……」

「……」

 日付がもうすぐ変わる、しんとした空間で、少しだけ、甘い時間…

 お隣に聞かれないように、私達は静かにソファーの上で肌を重ねた…

 行為終了と【お風呂が沸きました】のアナウンスがほぼ同時で、私達は赤い顔をしながらつい笑い合った。





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