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ふと目が覚めると、ベッドにタツミくんはいなかった。
時間はまだ5時前、居間の灯りが襖から漏れていて、そっと開けると、タツミくんが朝食のトーストをかじりながら小音量でテレビを観ていた。
「あ? イッサおはよ。起こしちゃった? まだ寝てていーのに」
私に気が付いて、タツミくんは微笑んだ。
「ごめんね、イッサが起きるとは思わなかったから、自分の分しか作ってないや」
「ううん、いい。タツミくん、コーヒー飲んだ?」
「いや、もう少ししたら出るから」
「全然時間ない? 準備済んでないなら、その間に淹れるよ。私も飲みたいし、一緒に飲もう?」
「そう? じゃあお願いしていい? インスタントでいいからね」
そう言ってタツミくんは顔を洗って、バッグに今日のラジオの原稿などを詰め込む。
私は眠気まなこを擦りながら、電動ポットで沸かしたお湯を、インスタント粉ときび糖と粉クリームを入れたカップに注ぐ。
「はいどーぞ」
「ありがと」
二人掛けの茶色のソファーに並んで座って、テレビをぼんやり眺めながらコーヒーを飲んだ。その時間わずか5分。
「さぁ、もう行かなきゃ」
黒いニットキャップとネックウォーマー、長いダウンジャケットを身につけて玄関へ向かうタツミくんの後をついていく。
「イッサ、もう1回寝てよ? 寝不足でしょ」
「ううん、もう寝ないよ。洗濯物溜まってたよね、洗って干しとくから。そしたら一度、自分の部屋に帰る」
「そうなの? 俺、今日朝のラジオだけだから、10時過ぎには帰ってくるよ。昼ラジオは録音したの流すから。
ねえ、イッサん家に迎えに行っていい? お昼、久しぶりに一緒に【喫茶KOUJI】で食べようよ」
「わあ、いいの? じゃあそうしよ。向こうの家で待ってるね」
「あ、いけね、もう出ないとやばい。
いってきます」
いってらっしゃい、と返す前にタツミくんが私の二の腕辺りの袖を引っ張って、軽く唇に触れた。
飲んだコーヒーの香りと、「見送ってくれるのってやっぱいいね」という言葉を残して、タツミくんはニヒッと笑いながら玄関の扉を閉めた。
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