ハジメの一歩

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「にーさん? どーしたっすか? 考えこんじゃって。
 さてはそのまかないラーメン、激マズだったんでしょ? にーさん、いっつも適当に作るっすもんねぇ。
 お客さんにはあんなに絶品の出すクセに(笑)」

 キタガワが俺の隣に座ってきた。キタガワとホノカに挟まれてる俺。なんだ、この構図?

「いや、今日は奇跡が起きた(笑)」

「まじっすか! オレにも食わせて下さいよ!」

「あっコラッ」

 俺が止めるのも聞かないで、横から勝手に自分の箸で麺を摘まみ取るキタガワ。

 ズルズルッ。

「うお!? なんすかコレ、チョー美味いんすけど! 奇跡起きちゃってるっす(笑)
 ホノカぁ、やべぇよコレ。食べてみ」

「え」

 キタガワに言われて、ホノカは俺とラーメンを交互に見た。明らかに戸惑ってる。そりゃそーだ。

「…食べる? ならどーぞ」

「え、あ、でも。お昼ごはんなんですよね? てんちょ…ハジメ、さんの」

「いいっていいって。俺、また別のまかない作るからさ。キタガワと全部さらって」

 ぎこちないホノカの呼び方にくすぐったくなりながら、俺はまたカウンター向こうの厨房に戻った。ご飯がまだ残ってるから、炒飯でも作るかな。

 ジャージャーと鍋を振りながら、ホノカを見た。

 奇跡のラーメンをちゅるっとひとすすりすると、頬が紅潮して、目が見開かれた。

「うわ…オイシイ…」

 伏し目がちに、溜め息のように出たホノカの言葉は、俺には最高の賛辞だった。

 その後の、キタガワの美味いっす! サイコーっす! の連呼なんかよりずっとずっと、俺の心に残った。





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