ハジメの一歩

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「あの、店長さん。ちがいます。ちがうんです。北川の言う事、どうか鵜呑みにしないで下さい。
 練習の帰り道でですね、北川が囲まれてて。
 3対1だったし。北川泥だらけだし。気付いたら竹刀振ってました。
 いや、頭とか腕とかじゃないです。相手が持ってたカバンめがけてスパァンと…
 あと、喉寸前で竹刀突きつけて…それだけです」

 キタガワが語ったのとさほど変わらない話を、ホノカは目を伏せながら淡々とした。

「後で聞いたら、そもそもの発端は北川が相手を睨み付けたからって。自分で蒔いた種、助けた私が馬鹿みたい」

「ちがうって。オレ目ぇ悪いから、細めて見ちゃうんだよ。それをよ、あいつらガン飛ばしたってイチャモンつけてさぁ、とばっちりだったんだって」

「くっくっくっ」

 キタガワとホノカの言い合いに、ついに声が漏れてしまって、ホノカの怪訝な眼差しを受けてしまった。

 いやだって。その武勇伝も、年頃の男を苗字で呼び捨てるのも、感情抑えて喋るのも、俺には新鮮なんだもの。

 あと、店長なんて初めて呼ばれた(笑)

「いや、その店長って、恥ずかしいな。責任者だけどさ。
 ハジメでいいよ。岩見沢いわみさわはじめ。苗字長ぇから、ハジメでいいや」

 茹で上がった麺を湯切りして、寸胴に中途半端に残った醤油と味噌のスープを掻き集めて、一緒に大盛り用のどんぶりに移した。





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