ハジメの一歩

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 しばらくして、工事現場のいかついおっさん達が入店してきて、それに続いて、ポニーテールの女の子が中をうかがいながら入ってきた。

「あっ。こっちこっちー!」

 まかないの塩豚丼を頬張りながら、キタガワはその女の子に向かって手招きをした。

 女の子はキタガワにしかめっ面で一瞥すると、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

「ここ、ここ。座って」

「アンタ、仕事しなさいよ。なんでごはん頬張ってるのよ」

「今休憩中ですぅ。ねっ、にーさん」

 ここで初めて目が合う。キタガワを見下ろして伏し目だったのが、俺を少し見上げた事で瞳に光が入った。

 背が高い。170近くあるんじゃないか。多分、キタガワより高い。首を下げ過ぎずに女の子を見るのって、なんだか久しぶりだな。ちなみに俺、180。

 キタガワに促されたのに、彼女はまだ座らない。

「いらっしゃい。キタガワから聞いてるけど…ホノカちゃん?」

「あ…ハイ。近藤こんどう帆乃夏ほのかです。あの、北川きたがわ、迷惑かけてませんか? こんな調子でいつも…なんかごめんなさい」

 あまり抑揚のない表情で、ホノカは折り目正しく頭を下げた。束ねた後ろ髪が、うなじの横を滑って揺れた。

 うは、礼儀正しい子だ。姿勢もやたらよくて、男の俺でさえかっこいいと思ってしまった。

「うん。まあ、よく働いてくれてるよ、キタガワ。調子いいことばっか言ってるけどな(笑) まぁ、座ってよ」

 俺の言葉で、ホノカはようやくキタガワの隣に座った。

「おにいさん、注文いいかい?」

「あっハイ、どうぞー」

 先程の工事現場のおっさん達の注文を受けて、

「ほれ、オマエも食べたんならさっさとこっちに戻れ!」

 まかないをとっくに食べ終えてるのに、尚もくつろごうとするキタガワを焚き付けた。

「はぁい。ホノカ、何にする? ここのオススメはね、醤油 。ギョーザも美味いよ」

 外していたエプロンと頭を巻くタオルを身に付けながら、キタガワが言うと、

「うん、じゃあ、それでお願いします」

 ホノカはまた、礼儀正しくお辞儀をした。





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