ハジメの一歩

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 そんな、先週の出来事を思い返しながら味噌ラーメンを作る。

 ラジオからは、タツミくんの軽快なトーク。また出前を頼んでくるんじゃないかって、冷や冷やする。

 すると、キタガワが突然あっと声を上げた。

「そうそう。にーさん、今日ホノカ、来るらしいっす」

「あちっ」

 スープがお玉から溢れて、どんぶりを持つ俺の手に掛かった。

「あれれぇ、にーさん、何でそんなに動揺してんすか? やっぱり? やっぱり? ホノカにー?」

「動揺するか、バカ。そんなんじゃないって、前から言ってるだろうが」

「へえぇ? そう言ってるヒトが、ラーメンの味なんか簡単に変えませんよねぇ? キシシ。
 オレ、にーさんの応援団すから。何でも言って下さいよぉ?」

 小憎らしい笑みを浮かべて、キタガワは出来上がった味噌三つを、お客に運んでいった。

 また俺は、過去の出来事を思い返す。

 今年の春の事。タツミくんが帰国する少し前の話。

 キタガワが【きたいわ屋】に慣れてきて、友達を呼びたいんすけどいいすか? と俺に聞いてきた。

 誰? 大学の仲間? と聞いたら、

 いや、高校の時ので、女なんすけどね、と、妙に真面目な顔をして、キタガワは言った。





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