ハジメの一歩

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【そんじゃ、キタガワくん、ほんとごめんね。いただきます。ズルズルッ…】

 タツミくんの、麺をすする音。耳障りにならないように、多分マイクから離れて食べてる。

 あ、そういえばタツミくんは、味を変えた後の味噌を知らないんだった。

 勇実から聞いてるだろうけど、彼も前の味噌の味を気に入っていたから、ちょっと反応が気になる。

【ね、ね、どう? 前と、違うでしょ?】

 勇実も気になるのか、タツミくんの反応を急かす。

【ズルズル…んっ…違うけど…俺、こっちも好き】

 ほっ。思わず溜め息が出た。相変わらず、アイツの好きは破壊力ハンパない。

【よかったっすー! にーさん、ラジオの前でにやついてるっす!】

 ばっ。思わず口を片手で覆った。アノヤロ、千里眼でも持ってる?

【あー美味かった。ごちそうさまでした。
 近い内に直に食べに行くって伝えて? あ、放送流れてるんだった(笑)
 ハジメさん、俺、また食べに行きますから】

【私も私もー(笑) ゴクゴク…ぷはー、ごちそうさまでした】

【おそまつさまっした! にーさん、今から帰ります! オレのまかない、宜しくっす!】

 カチャカチャとキタガワがどんぶりを片づける音をBGMにして、タツミくんは放送を続けた。

【ほんとにオススメです、【きたいわ屋】。
 場所は、商店街のメイン通りを駅の方へ歩いていって、○○カフェの所を左に曲がった細い道の先にあります。
 よかったら食べに行ってみて下さいね。
 それでは次のリクエスト曲は──】

 その曲が流れている間に、キタガワは抜けたらしい。曲が明けたら、タツミくんと勇実しか喋ってなかった。

 しばらくして店の引き戸が開いて、キタガワが満面の笑顔で帰ってきたので、

「オマエ、仕事サボって楽しそうにしてんじゃねぇよ」

 と、キタガワの頭にゲンコツを食らわせといた。





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