ハジメの一歩
5/75ページ
【そんじゃ、キタガワくん、ほんとごめんね。いただきます。ズルズルッ…】
タツミくんの、麺をすする音。耳障りにならないように、多分マイクから離れて食べてる。
あ、そういえばタツミくんは、味を変えた後の味噌を知らないんだった。
勇実から聞いてるだろうけど、彼も前の味噌の味を気に入っていたから、ちょっと反応が気になる。
【ね、ね、どう? 前と、違うでしょ?】
勇実も気になるのか、タツミくんの反応を急かす。
【ズルズル…んっ…違うけど…俺、こっちも好き】
ほっ。思わず溜め息が出た。相変わらず、アイツの好きは破壊力ハンパない。
【よかったっすー! にーさん、ラジオの前でにやついてるっす!】
ばっ。思わず口を片手で覆った。アノヤロ、千里眼でも持ってる?
【あー美味かった。ごちそうさまでした。
近い内に直に食べに行くって伝えて? あ、放送流れてるんだった(笑)
ハジメさん、俺、また食べに行きますから】
【私も私もー(笑) ゴクゴク…ぷはー、ごちそうさまでした】
【おそまつさまっした! にーさん、今から帰ります! オレのまかない、宜しくっす!】
カチャカチャとキタガワがどんぶりを片づける音をBGMにして、タツミくんは放送を続けた。
【ほんとにオススメです、【きたいわ屋】。
場所は、商店街のメイン通りを駅の方へ歩いていって、○○カフェの所を左に曲がった細い道の先にあります。
よかったら食べに行ってみて下さいね。
それでは次のリクエスト曲は──】
その曲が流れている間に、キタガワは抜けたらしい。曲が明けたら、タツミくんと勇実しか喋ってなかった。
しばらくして店の引き戸が開いて、キタガワが満面の笑顔で帰ってきたので、
「オマエ、仕事サボって楽しそうにしてんじゃねぇよ」
と、キタガワの頭にゲンコツを食らわせといた。
…