ハジメの一歩

4/75ページ

前へ 次へ


【──今の季節にピッタリの楽曲でしたね、□□で【XXX】でした。
 さて、ここでスペシャルゲストです。おなじみ、イッサ先生】

 曲が明けて、パーソナリティーのタツミくんが紹介したのは、彼の恋人の勇実。

【そして、【きたいわ屋】のアルバイトのキタガワくんです(笑)】

 湯切りをしていた麺を、危うく落としそうになった。あのヤロー、ナニついでに出演してんだよ。

「すいませーん。冷やし中華、ふたつお願いします」

「あっはい。冷やし中華2。少々お待ち下さいねー」

 お客の注文を受けながら、俺はラジオに耳を傾ける。

【タツミくん、お疲れさま。
 ちょうどそこで、キタガワくんに会ったんだよ。入って貰ってもよかったんだよね?】

【もちろん。キタガワくん、初めまして。後藤樹深です。
 店長のハジメさんには、すっかりお世話になってました。
 イッサからも、話はよく聞いてます(笑)】

【うわぁ、まじっすか? あ、っていうか、今オンエア中っすか?
 え、え、え、オレ、居ていいんっすかね!?】

【ヘーキヘーキ。少しお喋りしていきなよ。ねぇ、タツミくん?】

【うん。キタガワくんが、よければ。味噌ラーメンの説明、してくれませんか?】

【りょーかいっす! うひょーっ、光栄っす!】

 やべぇ。タツミくんも勇実も自由過ぎ。キタガワが図に乗る。

【えーっと。【きたいわ屋】の看板メニューは醤油なんすけど。
 今日お持ちした味噌もね、じわじわと支持が集まってんすよ。
 はい、お待ちどおさま。味噌おふたつです】

【わぁい。あ、キタガワくん、ラップ掛けるの上手だね。懐かしいなぁ。私もよくやった(笑)】

【ははは。にーさんにね、勇実くらい上手くやれ! ってハッパかけられたっす。猛練習したっすよ】

【あ、俺達だけごはんで、キタガワくんに申し訳ないな…イッサ、三等分にするけどいい?】

【いえいえ! そんな、おかまいなく! そんなんされたら、にーさんにこっぴどく叱られるっす!
 にーさんのまかないが出なくなるかも!? それはオレ、泣いちゃうっす!】

【そう? なんか、ごめんね】

【あははぁ。キタガワくんも、ハジメちゃんのまかない好きなんだね。私もねぇ、しょっちゅう食べさせて貰ってたなぁ】

 昔に思いを馳せる、勇実の声。俺もふっと昔に引き戻されそうになったが、

「すみませーん、醤油ラーメン、お願いします」

「あっハイ、醤油ね。ありがとうございます」

 ひっきりなしに注文が飛ぶから、そんなヒマねぇ。

 ちきしょー、キタガワぁ、早く帰ってこい。





4/75ページ
スキ