ハジメの一歩

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「キタガワぁ、テーブル拭き終わったか? のれん出すぞ」

「うっすー」

 商店街のメイン通りから一本外れた、小さな飲み屋が何軒かひっそり並ぶ一画に、俺が経営しているラーメン屋【きたいわ屋】がある。

 開店時間は11:00。出入口の引き戸をガラリと開けると、開店待ちの若者が2、3人並んでいた。

「いらっしゃい。どうぞ、中に入って。キタガワぁ、席にお通しして」

 りょーかいっす! とはりきってんだか間が抜けてんだかよく分からない、アルバイトのキタガワの返事を背中で聞きながら、俺は【きたいわ屋】ののれんを外側へ引っ掛けた。

 よくもまあ、こんなへんぴなトコ見つけて来るもんだなと、若者達の横顔を見ながら、カウンター向こうの厨房に入った。

「ご注文、お決まりですか?」

 キタガワがオーダーを取る。

 今日は暑いから、冷やし中華が沢山出るかな。

「えっとー。あの。ラジオ聴きました。味噌をお願いします」

 ぶっ。

 俺が思いきりむせたのを見て、キタガワはうひゃひゃと笑いながら、

「味噌ですね。みっつとも。かしこまりましたぁ。
 にーさん、味噌みっつっす。うひゃはははぁー」

 オーダーのメモを、上にぶらさけているクリップで挟んだ。





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