いいコンビ

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〈ピンポンパンポーン♪

 ○○高校文化祭にご来場の皆様に、迷子のお知らせを致します。

 グレーのフードトレーナーに、青のカーゴパンツを履いた、だいちくん、4歳の男の子をお預かりしております──〉

「じゃ、あとは頼むぞ。
 だいちくん、すぐおうちの人が来るからな。いい子で待ってるんだぞ」

 そう言って防音の放送室から出ると、あっという間に文化祭の喧騒に紛れた。

 一般公開の今日は、当たり前だが昨日の生徒限定日より賑やかで、迷子が出るのも仕方ない。

 今の放送を聞いて、すぐに家の人が迎えに来るといいと思いながら、窓の外の校庭に目をやった。



 俺は久間きゅうま鉄司てつじ、高校教師歴18年の43歳。この高校に赴任してから随分と経った。

 学年主任も幾度か任され、段々と責任が大きくなる。管理職への話もぼちぼち出だした。

 そんな中の癒しは、いつまでも可愛らしい奥さんと、3歳になった元気いっぱいの愛娘。

 今日の文化祭にも行きたいと言っていたが、俺が止めた。何故って、来週は娘の七五三。こんな人の多い所に出て風邪菌もらいでもしたら、たまったもんじゃない。

「久間先生! さっきの放送って」

 後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、担当しているクラスの男子が息を切らして駆けてきた。

「おう辻井。お前今店番じゃなかったか?
 迷子、たまたま俺が見かけてな。放送室に届けたところだ」

「ほんとですか。それ、多分僕の弟です。親と小学生の妹と一緒のはずなのに、何やってんだろ」

「なんだって。なら、早く行ってやれ。すごい泣いてたからな」

「はい、ありがとうございますっ」

 バタバタと放送室へ入っていく辻井の背中を見送ると、

「あーっいたいた!
 クマ…じゃなくて久間先生ー!!」

 久しく聞いてなかったアダ名が聞こえて、ついに来たかと苦笑いしながら振り返った。

「わわ、先生、またちょっと太った? ますますクマってきたんじゃない?(笑)」

「このー、北川ぁ。お前は相変わらずだなぁ。幸せ太りってヤツよ、悪いか。
 近藤もよく来たなぁ、会いたかったぞ」

「先生、ご無沙汰してました。就職前の同窓会以来ですね」

 悪ノリの北川と礼儀正しい近藤。6年前に担当したクラスの、ちょっと思い入れのある教え子たち。今や立派な社会人、俺も歳を取るはずだなぁ。

 その二人の後ろにいる、背の高い若者が俺と目を合わせると、ペコリと行儀よく会釈をした。



 …どちら様かな??





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