ふとした風に吹かれる

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「フフ…思いがけず楽しい再会だったね。昔のイッサの様子も知れたし。今となんら変わってなかったけど(笑)」

「もー…べーやんのせいで色々ばらされたし。
 いつかタツミくんの古い友達に会ったら、根掘り葉掘り聞いちゃうもんね」

 むくれるイサミに笑いが止まらない、ほっぺたを軽くつねって、

「ハイハイ。あーでも、べーやん君のおかげで大分緊張がほぐれた。
 行こ? お父さんとお母さん、待ってるでしょ」

「えっ、タツミくん緊張してたの? 大丈夫だよ、一緒にごはん食べて話するだけなんだから。かしこまらないで来てねって言ってたよ」

「そんなわけにもいかないの。お願いに伺う立場なんだから。あっヤバ…また緊張してきた」

「だからー、大丈夫だってばー…」

 そう、今日はイサミのご両親に…正式に挨拶をする。

 本当に緊張していたんだけれど、イサミを好きだったであろうべーやん君に会って…

 ヤキモチの代わりに、イサミは俺が幸せにするから、なんて妙な決意表明が奮い起った。

 吹き荒れそうと予感した風は、予想外に俺の心を穏やかに撫でて去っていったんだ。



 そんな俺の思いを知らないで、大丈夫を連発するイサミの手を握って、イサミの実家へ向かって歩き出した。



 少し北風が冷たい、ぽかぽか陽気のある昼下がりの出来事。










ふとした風に吹かれる〈完〉





[リアルタイム執筆期間]
2016年5月24日~26日

[改稿終了日]
2021年6月22日






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