ふとした風に吹かれる

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「いえ、いいんです! いっぱい買ったし、俺からお祝い代わりに…って、ちゃっちくてすんません。
 つーか、べーやん君って(笑)(笑)
 小山コノヤロ、オマエのしょーもないネーミングセンスを後藤さんに伝染うつすんじゃねーよ。
 後藤さん、本当にこんなのが相手でいいの? 後悔しない?」

 べーやん君、なかなか愚問な事を聞くね。

 そんなの、君だって分かってるでしょ。

 そんなイサミが…いいんだって。

 何も言わず含み笑いする俺の事はお構いなしに、

「んまー、失礼しちゃう、もぐもぐ。あ、味全然変わってない。うまーい」

 べーやん君がくれた思い出のメンチカツをサクサク言わせながら頬張るイサミ。

 俺も一口かじって、肉汁がじゅわっと口の中で広がる、「んまーい」イサミの真似をして顔を綻ばせた。

 べーやん君はその様子を満足そうに見届けて、ペダルに足を掛けながら言った。

「じゃあな小山。近い内にまたみんなで集まろうな。

 …って、もう小山って呼んだらダメか。

 お幸せにな、イ、サ、マ、シ!」

「ちょっとー! 小山のままでいいってばー!
 またねー、べーやんー!」

 イサミがそう叫んだ時にはもう、べーやん君の自転車は商店街のずっと向こうを走っていたけど、聞こえたみたい、片手を軽く上げていた。





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