ふとした風に吹かれる

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「は~、いい匂い。家に持ってったら喜ぶかな。タツミくん、ちょっと寄っていい?」

 まだ冬なんだけれど、春の気配が少しだけ感じられる、ある日の昼下がり。

 俺はイサミと一緒にイサミの実家近くの商店街を歩いていて、その途中にあった飲み屋の焼き鳥店頭販売の誘惑に負けているところ。

「もちろん。は~ほんといい匂い。イッサはタレ派? 塩派?」

「どっちも。でもここのお店はね、タレが絶品なんだよ。お父さんがね、よく買って帰ってくれてたんだよ」

「へえぇ、いいねぇ。はあ~、食欲そそる~」

「今食べる用にも買ってこう。タツミくん、どれ食べたい? 私はね…ぼんじりかなぁ。せせりもいいなぁ」

「イッサってば歯ごたえあるのばっかり。やっぱりイ…おっと」

「コラ! 今犬みたいって言おうとしたでしょ!?」

「あはは。えーとー、俺は…豚バラにしよっかなぁ。オススメのタレで食べてみたい」

「もうー、スルーするし。鶏じゃないの選んでるし(笑) しょうがないなぁ。
 すみませーん。
 ぼんじりタレと豚バラタレ、今ここで食べちゃいます。
 あとは持ち帰りで、鶏モモ塩2に、皮タレ2…」

 文句を言いながらも、店頭のお店の人にきちんと注文してくれるイサミ。

 一本一本丁寧に焼いてくれる様をイサミと眺めていると、

「アレッ! 小山こやま? 小山じゃん!」

 後ろでキイッと自転車のブレーキ音が飛んで、その後にイサミの苗字を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると、マウンテンバイクに跨がって車道と歩道の境目に片足をつけながら、俺よりちょっと背の低い若い男性が嬉しそうな顔をしていた。





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