とある男達の、とある居酒屋での会話
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「
キミの帰り待ってるんじゃないの」
言いながら、ハジメさんは俺のグラスにビールを注いでくれた。
「あ…と、ありがとうございます。ハジメさんもどうぞ…
さっき電話しましたよ。どっちにしろ、今日イッサ新年会に行ってていないから」
「あぁそれで。地下街うろついてたワケだ。へんなとこで逢うなぁと思ったんだよ。
考えたら、キミと【きたいわ屋】以外でばったり逢ったの初めてなんじゃないの」
「フフ…そうですね。
そういうハジメさんは? 今日木曜日だからお休みだったんでしょ。ホノカちゃんは?」
「ウン? まぁ、逢ってたけど。家まで送って、その帰りだったんだよ。
…あ、帰ったら電話する約束だった。ちょっと待ってて。適当につまみ頼んでおいて」
「ハイ」
ハジメさんが一旦店の外に出て、俺がお品書きを眺めていると、横から小さな舟盛りが差し出されて、俺の前に置かれた。
「えっ。俺、まだ頼んでないですけど」
状況が飲み込めず、それを持ってきてくれた奥さんを見上げる。
奥さんは可笑しそうに手を口に当てて言った。
「お父ちゃんから後藤さんに。
年末のラジオで言ってたでしょ?
ご婚約おめでとう(笑)
遠慮しないで食べてね」
ああ。そういうこと。
突然の祝福に笑みが零れる。
いいのかな?
また厨房の方に目をやると、大将がまたのれんの間から、照れくさそうに会釈していた。
…