とある男達の、とある居酒屋での会話

2/8ページ

前へ 次へ


 とある地下通路の並びにある、小さな居酒屋の引き戸を開けると、

「ハイいらっしゃーい。
 あらっはじめクン、珍しい。今日はお友達と一緒?」

 ふくよかで愛嬌のある年配の女性が、ハジメさんに親しげに話しかけてきた。

「ウン、まあ。ちょっと偶然、近くで逢っちまって。
 あ、こちら、俺の叔母。親父の妹さん」

「こんばんは。後藤樹深です。
 ハジメさんにはいつもお世話になってます」

「エッ!」

 俺が名を告げると、奥さんはひゃっと息を飲んで、

「後藤さん? この辺り限定で流れているラジオの?
 まあまあまあ!
 ちょっとお父ちゃん! ラジオの後藤さんだよ!
 お父ちゃんの大ファンの!」

 ばかやろう、さっさと席にお通ししろ! とのれんの奥の厨房から声が飛んだので、奥さんは肩を竦めて、

「いつもラジオ聴いてます。
 …お父ちゃんがね(笑)」

 こっそり俺達に耳打ちした。

 座敷のテーブルに案内されて、ふと厨房の方に目をやると、のれんの間から顔を出しているこの店の大将と目が合った。

 大将は気まずそうに、でも少し目尻を下げながら、俺に会釈をした。





2/8ページ
スキ