呼吸を重ねて

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「帰りさぁ、○○道メチャ混みだったな。オレらはバイクだったから、間縫えたけど。ホノカ達は大変だったんじゃない?」

 まかないの豚バラ丼をガツガツと頬張りながら、北川は話し続ける。

「え? あ、そうなの?
 ううん、私達は、その日には帰ってないから」

 何とはなしに麺をすする私。ゆずのいい香りが鼻をくすぐった。

「…帰ってない?」

「うん。…エ?」

「…日帰りだったんじゃなかったの?」

「ウ、ウン…エ?」

「………
 ………エーー??」

 北川が大袈裟に両手を頬に添える。

 爆弾を落としてしまった事、まだ気付かない私。

「うっそ…だってにーさん、日帰りだけど日曜も休むからオマエ来るなよって…

 あーー!

 だから?

 だからホノカ、キレイになっちゃってるの?

 っていうか、そのネックレス? にーさんとおそろだし!

 にーーさぁーーん!

 ホノカにナニしでかしてくれてるんすか!」

 なんで北川に、この世の終わりみたいな顔をされなきゃならないんだろう。

 っていうか。

 私、ばか。北川の前で、いつも墓穴掘ってる。

 顔中が沸騰してる。両手で全て覆ってうなだれた。

「やかましい!
 食ったんなら早くこっち戻って洗い物してくれ、俺休憩入るから」

 最後のお客さんがお会計を済ませて、それを見送ったハジメさんが北川を一喝した。

 渋々ながらもはぁいと返事をして、北川はカウンターの奥へ入っていった。

 ピークが過ぎたのか、それからお客さんは入ってこなかった。

 北川が座っていた席に、ハジメさんがまかないの醤油ラーメンを持って座った。

 先程の騒ぎにすっかり食欲が削がれてしまって、ラーメンの進みが遅くなった私。

 後から食べ始めたハジメさんが先に食べ終わって、私が終わるのを待っていた。

「ちょっと裏で空気吸ってくるから、何かあったら呼べよ」

 北川にそう言って、ハジメさんは私の手を取って外に連れ出した。





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