呼吸を重ねて
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「な、にバカなことを」
「なんだろうなー? なんか、前と違う」
「あのねえ…」
北川の戯れ言に呆れながらも、ふとある考えに辿り着く。
まさか。
ハジメさんと…シタカラ?
わーっわーっわーっ。
ナニを考えてるの、私。
「あっにーさん、今日のまかない何すか?」
「豚バラ丼ゆず風味。
ホノちゃんは、まだ食べてもらってなかったな? ゆず塩ラーメン」
ハジメさんが私と北川の食事を持ってきてくれて、その時に彼を見上げると、ハジメさんは目を丸くして私を見つめ返した。
私多分、へんなカオしてたんだ。
「…なんか、深刻なお話?」
北川に視線を送るハジメさん。
「いやね、にーさん、にーさんも…
…いや、にーさん今盲目だから、聞いてもしょうがないや」
「はあ? なんだそりゃ」
言いながらもう一度私を見たけど、お客さんに呼ばれてすぐにカウンターに戻っていった。
「あー、そうだ。私、美肌効果の温泉に入ったんだよ。だからじゃないかなぁ」
「ふーん? あーそう」
ごまかせたかな? なんか、心臓に悪い。色々聞かれるとボロが出そう。
「そういえば、ホノカとにーさんバーベキュー行ったんだろ?」
「うん。アンタはいつの間にか出来た彼女とツーリングだったって?」
「うんそう。アレ、何で知ってんの? あーっ、にーさん、バラしたー?」
ホノちゃん知らなかったとは思わなかったんだよ、報告しないオマエが悪い! とカウンターから声が飛んだ。
「(笑)。ほんと、言ってくれればいいのに」
「えー? まぁ、改まって言うのもなんかアレだし。
あっそうだ、ダム行った? にーさんに場所教えといたんだけど」
「うん。夏のバーベキューの時に北川が送ってくれた写真の所だったね。
そこで、彼女の話を聞いた(笑)」
「あらー、そう(笑)
オレ達はねその日、ちょっと北の方まで行ったんだよ。紅葉見に。
すげーキレイだったよ、ほら」
北川はスマホを取り出して、画像を幾つか見せてくれた。
真っ赤に萌える木々の風景と、何故だかやたらある北川のアップ、それから、紅葉の景色に紛れて小さく写っているライダースーツの彼女。
「写真に写るのあんまり好きじゃないのよ。だからそれが、精一杯のお宝ショット(笑)」
拡大すると、ショートカットの彼女が指を差してこちらを向いていた。
多分「キレイだね」って振り向いた所を撮ったんだろう。
北川は幸せなんだな。
彼女の眩しい笑顔を見て、そう思った。
…