呼吸を重ねて

59/62ページ

前へ 次へ


 それから数日後。



 ある講議が臨時休講になって、いつもより早くハジメさんのお店に立ち寄れる事になった。

 まだラーメン屋としての営業中。

 ガラリと引き戸を開けると、

「いらっしゃいませー!
 あっ? ホノカー、なんかすげぇ久しぶりだなぁ」

 しばらくぶりに北川と顔を合わせた。

「北川? 土日じゃないのに、なんでラーメンタイムにいるの?」

「今日さぁ、いっこだけ講議ある曜日なんだけど、大学行ったら臨時休講だった。
 だからにーさんに頼んで、シフト入れてもらった」

 カウンターを見やると、ハジメさんが完成したラーメンを並べている所だった。

 目が合うと、少しだけ口角を上げて、目を細めながらヒラヒラと手を振ってくれた。

 その仕草に心がキュッとなりながら、私も小さく手を振った。

「キタガワぁ、これ運んだらオマエ休憩入れ」

「うっすー」

「え? まだ休憩してなかったの? もう14時過ぎてるのに」

「んー。今日は何故だか開店から忙しかったよ。
 ねっ、にーさん」

「あー。なんでだろうな?(笑)
 ホノちゃん悪い、今日はいつもの席まだ空きそうにないから、キタガワと適当に座ってて」

「あ、ハイ。わかりました」

「お待ちどおさまです、期間限定ゆず塩ラーメンっす。
 それから、味噌ふたつに…ギョーザ3枚。
 以上でご注文の品お揃いですか? ごゆっくりどうぞー。

 ホノカー、こっちの席でいい?」

 お客さんに注文の品を届けると、エプロンと頭のタオルを取っ払って、北川が窓際のテーブル席に誘った。

「そんな、すごい久しぶりってわけでもないんじゃ? ちょこちょこ顔を合わせてたでしょ」

 座りながら北川に言う。

「そうだけど。でも、こうやって顔見ながら話すのは、ずっとなかった気がする」

「だって北川、私が来たらすぐ帰るし」

「そりゃホノちゃん、アナタ達のジャマはできないでしょーが」

 ハジメさんの方をチラリと見て、キシシと笑う北川。

 気を遣ってるんだか、面白がってるんだか、よく分からない。

 でも、北川との話のテンポは相変わらず気持ちがいい。

 と思ったら、急に北川が黙り込んで、私の顔をじーっと見つめてきた。

「な…
 なに…?」

 下から覗き込まれて、思わず上半身を後ろへのけ反る。

 片手で口と顎を被せながら、北川はこう言った。



「…アレ…

 ホノカ…

 …なんか…



 …キレイになった??」





59/62ページ
スキ