呼吸を重ねて
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それから数日後。
ある講議が臨時休講になって、いつもより早くハジメさんのお店に立ち寄れる事になった。
まだラーメン屋としての営業中。
ガラリと引き戸を開けると、
「いらっしゃいませー!
あっ? ホノカー、なんかすげぇ久しぶりだなぁ」
しばらくぶりに北川と顔を合わせた。
「北川? 土日じゃないのに、なんでラーメンタイムにいるの?」
「今日さぁ、いっこだけ講議ある曜日なんだけど、大学行ったら臨時休講だった。
だからにーさんに頼んで、シフト入れてもらった」
カウンターを見やると、ハジメさんが完成したラーメンを並べている所だった。
目が合うと、少しだけ口角を上げて、目を細めながらヒラヒラと手を振ってくれた。
その仕草に心がキュッとなりながら、私も小さく手を振った。
「キタガワぁ、これ運んだらオマエ休憩入れ」
「うっすー」
「え? まだ休憩してなかったの? もう14時過ぎてるのに」
「んー。今日は何故だか開店から忙しかったよ。
ねっ、にーさん」
「あー。なんでだろうな?(笑)
ホノちゃん悪い、今日はいつもの席まだ空きそうにないから、キタガワと適当に座ってて」
「あ、ハイ。わかりました」
「お待ちどおさまです、期間限定ゆず塩ラーメンっす。
それから、味噌ふたつに…ギョーザ3枚。
以上でご注文の品お揃いですか? ごゆっくりどうぞー。
ホノカー、こっちの席でいい?」
お客さんに注文の品を届けると、エプロンと頭のタオルを取っ払って、北川が窓際のテーブル席に誘った。
「そんな、すごい久しぶりってわけでもないんじゃ? ちょこちょこ顔を合わせてたでしょ」
座りながら北川に言う。
「そうだけど。でも、こうやって顔見ながら話すのは、ずっとなかった気がする」
「だって北川、私が来たらすぐ帰るし」
「そりゃホノちゃん、アナタ達のジャマはできないでしょーが」
ハジメさんの方をチラリと見て、キシシと笑う北川。
気を遣ってるんだか、面白がってるんだか、よく分からない。
でも、北川との話のテンポは相変わらず気持ちがいい。
と思ったら、急に北川が黙り込んで、私の顔をじーっと見つめてきた。
「な…
なに…?」
下から覗き込まれて、思わず上半身を後ろへのけ反る。
片手で口と顎を被せながら、北川はこう言った。
「…アレ…
ホノカ…
…なんか…
…キレイになった??」
…