呼吸を重ねて
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(★)
…また、夢を見た…
(ホノちゃん、やっぱり俺達、おしまいにしよう?)
ハジメさんからの別れの言葉。
どうして?
さっきまで、あんな…
ハジメさんはもう私を見ない。笑わない。物憂げに遠くを眺めて…
くるっと背を向けた。
(バイバイ)
待って。
待って。
待って。
足首を誰かに掴まれているみたいに、歩き出せなかった。
だめ
そんなの………
「──やだ………ぁ」
自分の寝言で目が覚めた。
朝の柔らかい陽射しが寝室に降り注いでいた。
私はハダカのまま横向きでシーツにくるまっていて、その後ろでハジメさんが抱きしめながら寝ていた。
夢かぁ。
現実かと思って、心底ほっとした。
「…うぅ…んん…」
なんだか、すごく唸されているハジメさん。
「ハジメさん…?」
ハジメさんの腕の中で体の向きを変えて、ハジメさんの頬に手を添えた。
ハジメさんのまぶたがゆっくり上がる。
「………」
「………」
ハジメさんの黒い瞳が私を捉えて、不安そうに揺れた。
何も言わないので、心臓がイヤな音を立てる。
しばらく無言で見つめあって、私が、ん? と小さく首を傾げると、やっと時が動いた。
「──た」
「エ? なんて?」
「──ビックリした。
ホノちゃんに…フラれる夢見た…
ハジメさん、私達もうおしまいですねって。
──うわぁ、まじで、ビックリした!」
ありったけの力で、ハジメさんが抱きしめた。
私達、同じような夢を見たんだ…笑いが込み上げる。
「そんな夢見ないで下さい」
「ゴメン」
私の言葉にシュンとするハジメさん。私も見たって事は、しばらく内緒にしておこう。
「誰にも譲らない…んでしょ…?」
「…ウン」
「だったら…
…そうして…?」
ハジメさんが目を丸くした。あれ、変なこと言ったかな。
「ホノちゃん…オネダリしてる…?
そんな…上目遣いされたら…さぁ」
「エ? …わっ」
ハジメさんの頬に添えていた手をそのまま上から包まれて、ハジメさんの唇が私の唇を塞いだ。
「ンッ…ァ」
いつの間にかハジメさんが私の腰に馬乗りになって、両手を頬から剥がして顔の横に押さえつけた。
熱い舌がねじ込まれる。
「ホノちゃん…
ホノカ…ァ
………もっかい
………ホシイ」
オネダリしたのは、ハジメさんの方。
二つのネックレスのパズルのチャームがカチャカチャと音を奏でる中
私達はもう一度
呼吸を重ねて
肌を重ねて
お互いを確かめ合った
…