呼吸を重ねて

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「っ!…」

「うわ…」

 突然の暗闇。

 分かるのは、雷鳴。稲光。

 そして…ハジメさんの体温と胸の音。

「ホノちゃん…」

 片手を私の背中に回しながら、もう片手でテーブルの上にあるランタンを手繰り寄せた。

「ソファーまで行ける…?」

 ランタンを灯して、私の顔を照らした。ハジメさんもよく見える。

 ハイ、と言おうとして声が出なかった。代わりに頷くと、ハジメさんはにっこり笑って、ゆっくり私をソファーへ導いた。

 身を沈めると、ピカッと青白く光って数秒後に空の割れる音が耳をつんざいた。

「近かったな、今の…」

 ソファーのそばにある小さなローテーブルにランタンを置いたハジメさんは、見えないように私の頭を自分の胸にもたげさせて、聞こえないように耳を塞いでいる私の手を大きな手で覆った。

「ダメなんだ? 光も? 音も?」

 ハジメさんの胸に擦り付けるように、頷く。

「大丈夫…すぐ終わるよ…こんなの…」

 そう言って、更に私を引き寄せて、ギュッと閉じ込めた。

 黒いラインの入ったグレーカラーのスウェットが肌に心地よくて、ハジメさんの匂いが鼻をくすぐった。

 付き合って初めての抱擁のきっかけが、こんなでいいのかな。

 ドキドキより安心が勝ってるって、どうなのかな。

 ハジメさんの心音がまるで子守歌みたいに、私の額から脳へ伝っていっているのが分かる。

 ウトウトと…しだした。

「…だいぶ…遠ざかったけど…」

 ハジメさんが呟いて腕を緩めたので、ぼんやりとした意識がはっとなった。

 そっと耳から手を外す。まだ少しゴロゴロ鳴っているけれど、光は視界に入ってこなくなっていたので、普通にしていられる。

「あ…の。とんだ醜態を…」

 ハジメさんがじっと見つめてくるので、縮こまって俯こうとした。

でも、ハジメさんの両手が私の頬をそっと挟んで、それを制する。

「あ…」

「カワイイ。コワガリホノちゃん」

「なっ」

 チガウ、

 と開きかけた唇を、ハジメさんは柔らかく塞いだ。



 声も息も、周りのどんな音も、一瞬にして奪っていったみたい…



 10秒間…音の無い世界に放り込まれた。





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