呼吸を重ねて

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 キャンプ場に戻った時にはもう小雨がぱらついていた。

 私達は持っていたバスタオルを頭から掛けて、駐車場からログハウスまで駆けていった。

 中へ入った途端ザッと大雨になって、ギリギリ滑り込めてよかったと安堵した。

 ハジメさんがテレビを点ける。

「うわぁ、この辺り、局地的豪雨だって」

「ほんとですか」

 ちょうど天気予報をやっていて、リモコンを持ちながらハジメさんが言った。

 星、楽しみにしてたのにな。

「何か楽しい番組やってるかな、この時間帯さっぱり分からん…
 ホノちゃん、いつも観てるのある?」

「あ、○chのクイズ番組はどうですか? お母さんがよく観てます。
 私も…この時間は、自分の部屋にいてテレビ観てません」

「エ? なんで?」

「だって…ハジメさんと電話中だもん…」

「あ…ウン…そう、だなぁ」

 私の言葉を聞いて、ハジメさんの頬に赤みが差す。

 私も自分で言って無性に恥ずかしくなってきた。

「あの、私、部屋着に着替えてきます」

「あ、俺も行く」

 二人で2階に行って、別々の寝室に入った。

 バッグから、白とスミレ色のボーダーの部屋着を出して袖を通した。

 ジッパーを上げて、いつもの流れでシュシュで髪をまとめようとして、手を止める。

 そのままでいて。

 ハジメさんのお願いを思い返して、だいぶ乾いてきた髪をブラッシングした。

 バケツをひっくり返したみたいになっている、窓という窓を叩きつける雨。

 その音に紛れて、隣の寝室のドアが開く音、階段を降りる音が小さく聞こえた。

 私も早く下に…

 サラサラになった髪をてっぺんから毛先へゆっくり撫で付けて、ふぅ、と息を吐いた。

 それと同時に、視界の端に入ってきた一瞬の光。

 私の心臓がイヤな音を立てた。

 これは、私のキライな…

 ドォン、ゴロゴロゴロ…

 私の血の気が引いていく…

「あっホノちゃん、何か淹れようか。
 コーヒーか、煎茶か、紅茶もあっ…」

 階段を足早に降りる私を見て、キッチンの引き出しにあったインスタントの袋達を手に持ちながら聞いてくるハジメさん、途中で言葉を止めた。

 私が、正面からしがみついたから。

 今日初めて、ハジメさんの鼓動をダイレクトに聞いた。

 でも、その余韻に浸っている余裕は私には無かった。

 窓の外で稲妻が走ったのを見てしまって、ハジメさんの胸の中で咄嗟に両耳を塞いだ。

 そのすぐ後でお腹に響く程の雷鳴が轟いて、フッとログハウス中の電気が消えた。





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