呼吸を重ねて

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 キッチンで材料を全て切って、外のかまどの火をおこした。

 ひんやりとした夜の空気だったけれど、炎があたたかいから薄手の長袖の上着を羽織るだけで十分だった。

 網と鉄板を設置して、ハジメさんが焼き始める。

「ホノちゃんは、何もするなよ?」

「ハイ。全部焼いてくれる約束ですもんね(笑)
 でも…
 そばにはいても、いいでしょう?」

「ハイ。いてください(笑)
 ほら焼けた。どんどん食っていこう」

 網で焼いたお肉や野菜を私のお皿に乗せていくハジメさん。

 もう片手で鉄板の焼きそばを炒めて、なんて器用なんだろうと思いながら眺めた。

 自分が食べるだけじゃなくて、ハジメさんの分もお皿に取り分けた。

「わざわざいいのに。ホノちゃんが食べさせてくれれば」

「な。や、ナニ言ってんですか、甘えないで下さいっ」

「えぇ~っ」

 恥ずかしい言葉についつっけんどんになる私に、おおげさに嘆きつつ笑いを堪えるハジメさん。

「ハイ、海鮮塩焼きそば。さて、次は…
 あれ、このソーセージ。ホノちゃん、何かした?」

 竹串の刺さった極太のソーセージを目の高さまで掲げて、ハジメさんは言った。

「あ、気付きました?
 へへ、この前テレビでね、そう…螺旋に切り込み入れて焼いてたのを見て…
 美味しそうだったから」

「ふーん?
 …お。おおお、おもしれー(笑)」

 切り込みから肉汁が溢れて、肉が膨張して、竹串に巻き付いているかの様に焼けたソーセージ。

 焼きの手を一旦休めて、ハジメさんはガーデンテーブルに並べられた料理達を、私と肩を並べて一緒に食べた。

 焼けたばかりのソーセージを頬張って、はふはふと白い息を空へ飛ばす。

「ンーッ」

「ウマイ?」

「ハイ」

「ほんと…うまそうに食べるよなぁ(笑)」

「ン…ダメですか?」

「ダメじゃねぇ。そのままでいて」

「ふっ…いいんですか? こんな食い意地張ってて(笑)」

「いーよー。シメのラーメンも食べて貰わないと困る」

「エ? ラーメン? エ? ここで?」

 いつの間に準備をしてたのか、網の上に二つ小鍋が乗っていた。

 パックされた麺と味噌スープを開けて、クツクツと温める。

「一食分しか余らなかったから、これでカンベンな」

 私の分とハジメさんの分、小さいどんぶりによそわれた味噌ラーメンを、ズルズルとすすった。

「はー。やっぱり、ハジメさんの味噌大好き」

「そう?」

 一食分を半分だから、三口ほどで食べ終わった。

 それを見計らったように、ハジメさんが私の耳に唇を寄せて、

「料理人冥利に尽きます」

 囁いたと思ったら、そのまま耳にキスをされた。

「ちょっ…ハジメさん!」

 咄嗟に刺激を受けた所を手で覆って、キョロキョロと辺りを見回した。

「…誰も見てないよ。
 …多分」

 いたずらっ子みたいにペロッと舌を出したハジメさんは、事も無げに食事の続きをした。



 もう、食べれない。一瞬にして、胸いっぱいになった。





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