呼吸を重ねて
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秋の日は釣瓶落とし。
オレンジに染まる空間は徐々に闇に支配されていって…
その短い時間で、私は夢を見た。
亡くなったお父さんが、ニコニコして立っていた。
そばに行くと、お父さんは私に、何かを握っている手を差し出した。
私は手をお皿にしてそれを受け取った。
コーヒーキャンディだった。
パクッと口に放り込むと、キャンディがマシュマロに変わって、
ふわっと柔らかくコーヒーの香りが広がった。
お父さんがずっと微笑んでいるので、すごく幸せな気持ちになった──
「…ン…ゥン…」
目を閉じたまま呻くと、ぎしっと何かが軋んで、私の体が少し上下に揺らされた。
「…ちゃん…ホノちゃん…」
今度は頬に温かい感触。
重いまぶたをゆっくり上げると、ハジメさんがソファの下で膝立ちをして、私の頬を片手で覆っていた。
「…起きた?」
「…ア? アレッ…ハジメさん?
…エッ? エッ?」
「落ち着いて(笑)」
「寝ちゃってました…!?」
「ウン(笑)」
ソファの上でキョロキョロと視線をさ迷わせる私に、ハジメさんは笑いながら手を取って、私の上半身を起こした。
窓の外はすっかり陽が落ちて、ログハウスの中は電灯で明るくなっていた。
「わあぁ、ごめんなさい…今何時ですか?」
「17:45。俺の方こそごめん。寝ないって言ったのに寝ちゃって…さっき起きたところ。
コーヒー出来た時に叩き起こしてくれたらよかったのに」
「ふふ…気持ち良さそうに寝てたから。すっきりしましたか?」
「ウン。ひと眠りしたら、腹へってきた(笑)」
「(笑)。じゃあ、いよいよ夜のバーベキューですね。準備始めましょう?」
キッチンへ向かおうと立ち上がると、ハジメさんに手首を掴まれて、またソファにしりもちをついた。
すぐ横にハジメさんも座ってきて、間が無いくらい近い。
「ハジメさん?」
「ごめん。
今日まだ
…してないから」
私の膝の上で私の両手を押さえたまま、ハジメさんが顔を近づけ…
ちゅっ…
唇が重なった。
…