呼吸を重ねて
32/62ページ
彼の奥さんとお子さんが見えていた所に近づくと、相ちゃんおっそー、と声が飛んで、彼は苦笑いをしながら、
「あ、俺、相田っていいます。だから相ちゃん(笑)」
私達を振り返ってそう言った。
「ちょっとみんないい?
こちら…えーと、ハジメくんとホノちゃん、でよかったよね?
俺らのマスの下処理をしてくれたんだ。彼らの分もここで焼かせて」
「あっどうも…ハジメです」
「ホノカ…です。おじゃまします」
どうぞどうぞ! と皆さんは気さくに私達を輪の中に入れてくれた。
マスを焼く間、相田さんの奥さんが娘ちゃんを抱っこしながら隣に来て、
「主人がお世話をかけたようですみません。
もう、見ず知らずの方に…一体何があったの?」
私達と相田さんを順番に見た。
「え? あぁ、俺がね、指輪外してうっかり落としちゃってね、それで…はっ」
そこまで言って、相田さんはしまった! という顔をして、奥さんに鋭く睨まれた。
奥さんが言うには、昔からしょっちゅう指輪を落とすらしかった(苦笑)
「だからね、メイコさん、魚の臭いが付くのがイヤだったんだってばぁ」
「知りませーん。
あ、よかったらお魚焼けるまで、焼きマシュマロでもいかがですか?」
相田さんの言い訳をスルーして、奥さんが竹串にマシュマロを刺して炙ったのを私達にくれた。
トロッと口の中で溶けて、新鮮な触感。こんな食べ方もあるんだと感動した。
ハジメさんはやたら男性陣にお酒を勧められていたけど、丁重にお断りして一滴も口にしなかった。
焼き上がったマスを皆でいただいて、それがすごく美味しくて絶賛の嵐。ハジメさんの下処理が素晴らしかったおかげ。
何度もお礼を言われながら、私達は相田さん達と別れた。
「ふー。賑やかな人達だったなぁ(笑)」
「そうですね(笑)
相田さん、パパさんでしたね」
「ウン」
「可愛い奥さんとお子さんでしたね」
「ウン」
「幸せそうでしたね」
「ウン」
「あの時…ヤキモチ?」
「…ハイ。
はぁ…ダサいな、俺」
「ふっ…そんなことない…ふふっ…」
ログハウスに戻る道すがら、私達はそんな事を話しながら…手を繋いで歩いた。
…