呼吸を重ねて

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 彼の奥さんとお子さんが見えていた所に近づくと、相ちゃんおっそー、と声が飛んで、彼は苦笑いをしながら、

「あ、俺、相田っていいます。だから相ちゃん(笑)」

 私達を振り返ってそう言った。

「ちょっとみんないい?
 こちら…えーと、ハジメくんとホノちゃん、でよかったよね?
 俺らのマスの下処理をしてくれたんだ。彼らの分もここで焼かせて」

「あっどうも…ハジメです」

「ホノカ…です。おじゃまします」

 どうぞどうぞ! と皆さんは気さくに私達を輪の中に入れてくれた。

 マスを焼く間、相田さんの奥さんが娘ちゃんを抱っこしながら隣に来て、

「主人がお世話をかけたようですみません。
 もう、見ず知らずの方に…一体何があったの?」

 私達と相田さんを順番に見た。

「え? あぁ、俺がね、指輪外してうっかり落としちゃってね、それで…はっ」

 そこまで言って、相田さんはしまった! という顔をして、奥さんに鋭く睨まれた。

 奥さんが言うには、昔からしょっちゅう指輪を落とすらしかった(苦笑)

「だからね、メイコさん、魚の臭いが付くのがイヤだったんだってばぁ」

「知りませーん。
 あ、よかったらお魚焼けるまで、焼きマシュマロでもいかがですか?」

 相田さんの言い訳をスルーして、奥さんが竹串にマシュマロを刺して炙ったのを私達にくれた。

 トロッと口の中で溶けて、新鮮な触感。こんな食べ方もあるんだと感動した。

 ハジメさんはやたら男性陣にお酒を勧められていたけど、丁重にお断りして一滴も口にしなかった。

 焼き上がったマスを皆でいただいて、それがすごく美味しくて絶賛の嵐。ハジメさんの下処理が素晴らしかったおかげ。

 何度もお礼を言われながら、私達は相田さん達と別れた。

「ふー。賑やかな人達だったなぁ(笑)」

「そうですね(笑)
 相田さん、パパさんでしたね」

「ウン」

「可愛い奥さんとお子さんでしたね」

「ウン」

「幸せそうでしたね」

「ウン」

「あの時…ヤキモチ?」

「…ハイ。
 はぁ…ダサいな、俺」

「ふっ…そんなことない…ふふっ…」

 ログハウスに戻る道すがら、私達はそんな事を話しながら…手を繋いで歩いた。





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