呼吸を重ねて

22/62ページ

前へ 次へ


 走ってきた私達を見て、スタッフさんが声を掛けて手招きをした。

「あっ、最後の受付の方ですね? 事務所から連絡受けてます。どうぞこちらへ」

 ひとつ空いていたテーブルを案内されて席に着くと、丸めたピザ生地とソーセージやトマトなどの具材を乗っけたお盆を持って、スタッフさんがひとつひとつ説明しながら付いてくれた。

「まずはこの生地を…こう手で伸ばして…
 せっかくですので目一杯大きくしましょう…
 どうぞ、この麺棒をお使い下さい…あは、すごくお上手ですよ」

 ハジメさんが手際よく生地を伸ばして、途中で私も麺棒で更に伸ばして、かなりの大きさに広がった。

 私がピザソースを生地に塗っている間、ハジメさんがかなりのスピードで具材を切って、それを見てスタッフさんが目を丸くしていた。

「あ、僕お店やってるんで」

 とハジメさんが笑いながら言うと、

「ははぁ、どおりで。いや、お見事です! 焼きまでの経過がこんなに早い人はなかなかいませんよ」

 感心したようにスタッフさんは溜め息をついた。

 具材を沢山乗せ終えて、ちょうど焼き釜が空いたので、スタッフさんのサポートで私がピザを長ヘラで釜に入れた。

「わぁ、あっつい」

「ヤケドにご注意下さいね、一気に引きますよ!」

 そう言われて、スタッフさんと一緒に長ヘラを抜いた。ピザが釜の中央に収まったのを見届けて、額から流れる汗をそっと拭った。

「お疲れさん」

「ふふ。早く食べたいなぁ。絶対美味しいですよ」

「なぁ。1分ちょっとで焼き上がるらしい」

「あ、そんなに早いんですね」

 そんな事をハジメさんと話しながら、釜の炎を一緒に見つめていた。

 ハジメさんの言う通り、「ハイ、焼き上がりです!」ともうスタッフさんが言って、今度はハジメさんと一緒に長ヘラを持ってピザを取り出した。

「なんかアレみたいだな…あの…共同…」

「エッ? ナニ? 何ですか?」

「イヤ! なんでもなーい! わぉ、うまそー! 食べよう食べよう」

 ハジメさんが何て言ったのか聞こえなかった。

 もう一度聞こうとしたら、ハジメさんがピザのお皿を手渡してきたから、食べざるをえなかった。

 一口かじると、熱々の蒸気と一緒に小麦の香りがふわっと広がって、「ンーッ!」ハジメさんの言った事はどっかに飛んでいってしまった。

 それくらい美味しかった、ハジメさんと一緒に作ったピザ。





22/62ページ
スキ