呼吸を重ねて
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北川に、彼女が出来たって?
「え。ウソ。ハジメさん、からかってない? え。ホント?」
私、よっぽど変な顔をしていたに違いない。ハジメさんがしばらく私を見つめて、ふるふると肩を震わせた。
「ちょっ…どうして笑うんですか」
「んっ? ごめんごめん。
クールな表情なのに…口調はすげぇ焦ってて…
そのギャップが…オモシロ…くくくっ」
口を片手で覆って、堪えるように笑うハジメさん。出逢った頃から変わらない、私が北川の話題に触れればいつもこうだ。
「もう…」
「はーごめんごめん。もう笑わない。
知らされて…なかったかぁ。
俺だって、ついこないだよ?」
ハジメさんが言うには…
【にーさんとホノカがバーベキューデート行くんなら、オレは彼女とツーリング行くっす】
サラッと聞かされたらしい。
オマエ、いつの間にそんな事になってんのって聞いたら、
【んー、ホノカの大会終わった後ぐらい? オレの仲間達がね、出逢わせてくれちゃったんすよねぇ。
同じバイク好きなんで、話が合っちゃって。あれよあれよという間に…そんな感じに】
…なんて事を話していたらしい。
「へぇ…北川にねぇ…ふぅん、そうなんだ…」
…なんで、私に話さないんだろう。
ハジメさんとお付き合いを始めて、ちょくちょくハジメさんのお店に通う私は、当然アルバイトの北川とも顔を合わす事がある。
報告出来るチャンスは何回もあったはず。どうして、その話が一度も出なかったんだろう。
北川とのメッセージに目を落とす。夏の終わりからがくんと減ったやりとり。北川のくだらないつぶやきは、今はもう送られてこない。
「…寂しい?」
「え」
不意にハジメさんに問われた。その意味を噛みしめる。
「寂しいとか…じゃないとは思うけど。
開口一番に知らせそうなものなのに、何で話さないのかなぁって。
だって、あの北川ですよ? 全然…らしくない」
そう…らしくない。何でも言い合える仲だと思っていた。正確には、聞きもしないのに北川が何でもペラペラと喋るんだけど。
突然降って沸いた違和感。北川に対する何故? が止まらなくて、胸の奥でなんだか…気持ち悪かった。
…