呼吸を重ねて
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自分の車を持っていないハジメさん、知り合いから小型のワンボックスを借りて私を迎えに来てくれた。
「お母さんと、何か話しましたか?」
車に乗り込みながら、ずっとニコニコしているハジメさんに聞いてみる。
「んー?
帆乃夏を宜しくお願いします、って頼まれた。
やっぱり娘は行かせません! って言われるかもって、ずっと心臓バクバクだった(笑)」
「えぇー?(笑)」
「でも…いいな…ホノちゃんのお母さん。朗らかだな。ちょっと…うちの母親を思い出した」
「ふっ…そうですか?」
10年前に亡くなったというハジメさんのお母さん。うちのお母さんに似てるの?
お母さんが行ってしまった方向を、遠い目で眺めるハジメさんが、どこか切なげで…
肘掛けに乗せているハジメさんの手の先を、そっと握る。
するとハジメさんの手の平がくるりと上を向いて、私の手の平とピッタリくっついて、ハジメさんの長くて骨張った指が、私の手の縁をふわりと優しく包んだ。
私も、ハジメさんの手の縁をそっと握り返す。
【──というわけで、代打を努めさせて頂きました、後藤樹深でした。1時間のお付き合い、ありがとうございました。
これからお出掛けの皆さん、お気を付けていってらっしゃい。素敵な一日を──】
タツミさんのラジオ番組が終わりを告げた。
「ハジメさんも聴いてたんですか? この緊急番組(笑)」
「うん。勇実からメッセージ貰ってて…車借りた後に点けたから、途中からだけど。アイツ、バカみてぇに早い時間に送ってきたな」
「ハジメさんの所にも? 私にも来てました(笑) 寝ててリアルタイムでは読めなかったけど」
「まじか(笑) 俺は…リアルで読んじまったよ。ちょうど起きてて…」
「えっ起きてたんですか? 大丈夫ですか? もしかして、あまり寝てないんじゃ?」
「あは…寝つけなかったんだよ…楽しみ過ぎて」
「あ…」
ハジメさんの眼差しに捕らわれて、ホノちゃんも同じ? って問われているようで…頬が熱を持った。
そんな私を見ていとおしそうに笑って、
「出発、していい…?」
ハジメさんは優しく聞いた。
「…ハイ…お願いします…」
「へへ…よっしゃ。行くかぁ」
名残惜しそうに私の手を離して、ハンドルを握るハジメさん。
サイドブレーキを解除してゆっくりアクセルを踏むと、スルスルと車が走り出した。
彼と一緒にいられる、長い時間の幕開け。
こんな始めの方から…私の心臓は、囃し立てるみたいにドクドクと打ちつけていた。
…