呼吸を重ねて

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 昨夜の内に用意しておいた服に着替えて、まとめた荷物を持って下に降りた。

 お母さんがすでに起きていて、朝ごはんを作り終えていた。

「あれっ、お母さん、今日お休みじゃなかったの?」

「うん。言わなかったっけ? ひとり病欠出たから、ピンチヒッター」

 ここでもピンチヒッター、朝からよく聞くなぁ。

「帆乃夏、何時に出るの?」

「7時過ぎに、ハジメさんが迎えに来てくれる」

「そうなの。かあさん先に出るから、洗い物と戸締まりお願いね」

「はぁい」

 朝ごはんを食べ終えたお母さんが、パタパタと支度をしながら私に言った。

 私がカチャカチャと食器を洗っている間に、いってきますとお母さんは出ていった。

【今日は本当にお出掛け日和ですね。○○地方では紅葉が見事でしょうね──】

 ラジオからタツミさんがそんな事を言っていた。紅葉かぁ。今日行く所はまだそんな時期ではない。いつかハジメさんと見れたらいいな。

 そんな事をぼんやりと考えながらラジオを聴いていたら、軽快な音がひとつ鳴って、スマホを見るとお母さんからのメッセージ。



【ハジメさん、もう迎えに来てるよ。
 準備済んでるなら早く出てきなさい。
 待たせたらダメ。
 戸締まりだけはしっかりね。
 気を付けていってらっしゃい】



 このメッセージに驚いて、慌てて戸締まりをして、荷物を持って玄関を飛び出した。

 お母さんは自転車でもうずっと遠くの方へ走っていて、その背中にハジメさんが手を振っていた。

「ホノちゃん。おはよ。
 ごめん。早く着き過ぎちゃった。
 時間になるまで連絡しないで待ってようと思ったのに、キミのお母さんに見つかっちゃった。
 急かしちゃったよな、ごめんな」

 私に気がついて、ハジメさんは照れ笑いをして頬をひとつ掻いた。





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