呼吸を重ねて

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 誘導尋問で言わされたようなものだ。

 私が優勝した剣道の大会はとても遠い所で催されたのだけど、その時にハジメさんと北川がわざわざ応援に来てくれた。

 その話をお母さんにして…

 お母さんは北川とは面識があるけど、ハジメ? 誰? となって。

 あの、北川が通ってるバイト先のラーメン屋さんの店長さん…

 へえー。遠い所まで来てくれたのね。

 うん…そう…

 いい人だね。

 うん…やさしいよ…

 帆乃夏、顔真っ赤。好きなんだね。

 え、あ、う、うん…付き、合ってる。

 やっぱりか! 早く言えばいいのに。夏休みの終わり頃から、様子が変わったなと思ってた。

 そ、そうなの? べ、別に普通だったと思うけど。

 あはは。よかったね帆乃夏。まあ、がんばって。

 う、うん。ありがと…

 縮こまる私。お母さん、すごくニコニコだったっけ。今みたいに。

 …言っておいた方がいいのかな? 今度のお泊まりの事。まだ、どこに行くのか知らされていないけど。

「ねえ、お母さん」

「んー?」

 朝ごはんを食べ終えて、食器を流しに持っていって洗い始めたお母さんに言った。

「今度の週末、バーベキューしに行くんだ」

「へえー。いいね。夏の時みたいに? 帆乃夏あの時、嬉しそうに帰ってきてたね」

「そう。今度は、遅くなったけど私の優勝のお祝いにって。
 それで…あの…
 …一泊する、みたい…」

「ふーん。いいんじゃない? 皆さんと楽しんでおいで」

「あの、いや…
 今回は、ふたり…」

 お母さんの返しがない。代わりに、カチャカチャと食器を洗う音がピタリと止んだ。

お母さん、曇った顔をしていた。





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