〈改稿版〉traverse
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どうして…樹深くんがここにいるの…?
聞きたいのに、声が出ない。
こっちに来ようとしているサナダを、樹深くんが全身で食い止める。
「な…んだよ、テメェはぁ? 正義の味方気取りかよ…?」
「うるさい! 黙れ! アンタこそなんなんだ、こんな…っ、ばかじゃないのか!」
いつもの優しい樹深くんじゃない、猛々しく吠えて…コワイ。
サナダから解放されたのに、動けない私。
そんな私を一瞬見て、樹深くんはまたサナダと揉み合った。
「イッサ、行けってば!!」
よく通る樹深くんの、鋭い声。
それを聞いて、ボロッと涙が溢れて、やっとメイン通りへと走り出せた。
バキッと鈍い生々しい音がした。私はそれに振り向かなかった。
乱れた服を、ボタンを掛け直そうとして指がガチガチと震える。何とか全部留められて、倒れた自転車の所まで戻ってきた。
心臓がバクバクして、自転車をうまく起こせなかった。
漕いでいけそうもなかった、そのまま横から押しながら、息絶え絶えに走る。
今思えば、なんでこの時に警察に駆け込まなかったんだろう。
元ちゃん ゴメンナサイ
樹深くん ゴメンナサイ
唇をガクガクと震わせて、そればかりを頭の中で唱えながら、家に帰った。
…