〈改稿版〉traverse
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(★)
サナダは舌舐めずりをして、片手で器用に私のカットシャツのボタンを外しにかかった。
第一、第二、第三…まで開かれて、谷間が見える所まではだけた。
「やっぱりぃ。Cかな? Dかな?」
サナダの興奮した声、ボタンを全て外さんとする止まらない指、おぞましくて、悔しくて、自分の非力さが情けなくて、絶望する…
ゴメン、元ちゃん、ゴメンナサイ。この場にいない元ちゃんに沢山謝る事しか出来ない。
色んな感情がごちゃまぜになって、遂に全身の力が抜けてしまった。
──その時。
「うぐっ!?」
呻き声と共にサナダがうずくまった。一体どうしたの?
サナダの足下に何かが転がってきて、それは大きなスポーツバッグだった。これに当たったらしい。
呆然とバッグとサナダを見ていると、急に腕を引かれて、路地の出口の方へ放られた。
よろめいたけれど、なんとか足を踏ん張った。
サナダの方を振り返る。
サナダは見えない。
代わりに、ひとつの後ろ姿…
「行って! 早く!」
うそ
樹深くんだった
…