〈改稿版〉traverse

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「…こんばんはぁ。マッサージ屋のおねえさん」

 視界が突然開けた。両目を覆っていた生温かい物、手だったようだ、遠ざかった。

 同時に、聞き覚えのある声に背筋がゾッとした。

「あなたは…」

「先日は気持ちいいマッサージを、どうもありがとうございましたぁ」

 言いながら、私の両肩を壁に乱暴に押し付けたのは…典ちゃんをつけていた、あのサナダだった。

「なっ…なにを、なんで、こんな事をっ…」

 サナダの手首を掴んで逃げようと試みるけれど、悔しいくらいビクともしない。

「キミ、ノリコちゃんと仲いいっぽいよねぇ? ノリコちゃんの事、ちょっと教えてよ」

 口調はおっとりだけど、目は笑ってない。やばい。早く…逃げないと…

「僕ねぇ、ノリコちゃんの笑顔に癒されて…僕を案内してくれる時のあの優しさ…はぁ、可愛くてもうたまんなくてねぇ」

 そりゃきっちり仕事をしてるからだよ、愛想の悪い受付なんて誰だってイヤじゃんか、と突っ込みたいのに、とにかく気持ち悪くて声が出ない。

「なのに、一昨日、あの店に男が来て…ノリコちゃんと帰ってった…
 …なんなんだ? 付き合ってるヤローなのか? なんであんなのと? 僕だけに微笑んでくれてたのに…なんで…」

 うわ、もう、なんて独りよがりなんだろう。と思った瞬間、サナダの手の力がふと抜けている事に気付いた。

 サナダの手を思いきり外側へ払い退けると、サナダがバランスを崩してよろめいた。

 路地の出口へ走ろうとした時、先程の強い力で肩を掴まれて、今度はダンッと強く壁に背中を打ち付けられた。

 痛いと思う間もなく、サナダに両手を頭の上で固定される。

 サナダの顔が近い。

「イヤッ…た…すけて…元ちゃんっ…」





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