〈改稿版〉traverse
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金曜日、昨日の余韻を残したまま仕事をした、きたいわ屋の帰り。
例の、洒落た街灯とベンチの周りに、人影はなかった。
自転車を降りて、横から支えながら樹深くんがいつも立つ場所に自分も立ってみる。
樹深くんはいつ戻るのかな、今頃実家でのんびり過ごしてるのかな。
私からはもちろん樹深くんからも…電話やLINEは無かった。
どうせ次の月曜に喫茶KOUJIで逢える。うん? 逢えるのかな? 来週来れるかどうかって、確か言ってたよね。
でももし来たら、最初に決めた通りサプライズで打ち上げをしよう。
そう考えた時、
「あの、スミマセン、ちょっと、お尋ねしたいんですけれど…」
と、後ろから声を掛けられた。
「えっはい」
振り向いたけれど、声の主は私の視界に入らず、急に上半身が後ろに引っ張られた。
え? ナニ?
そう思ったと同時に、ガシャンッと私の自転車が派手に倒れて、後輪がグルグルと廻った。
──それが私が見た最後の景色。
私は誰かに後ろから羽交い締めにされて、両目の視界を遮られて、細い路地に引きずり込まれた。
…