〈改稿版〉traverse
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(★)
私の目の前は、すっかり闇に包まれた海原。
すぐそこで、人の行き来する音…
「ま…って…はじ…め…」
元ちゃんが私の首筋に吸い付く。見られちゃう。こんな、きたいわ屋の裏口よりリスクの高い所で…ダメだよ…
言いたいのに言えない、元ちゃんが腕の中でくるっと私を半回転させて、顎を持ち上げて唇を塞ぐ。
「勇実ぃ…俺達…ひと月…経ったな…」
唇をくっつけながら、元ちゃんが囁く。
「ん…っ、そう…だね…」
「……」
…? 元ちゃん? 黙っちゃった、どうしたの?
「……っ!!」
私の顎を捕らえていた元ちゃんの手がスルスルと下りて、シャツの裾から中へ…
直に、膨らみを、包まれた。
言い様のない甘い痺れが身体中を走る。
元ちゃんの手の動きに狂ってしまいそうになる…必死に、声を抑えた。誰にも気付かれたくない。
「───」
恥ずかしさで涙が滲んで、私が掠れた声を出しそうになった時、元ちゃんが急に腕を伸ばして、私との距離を空けた。
「…元ちゃん…?」
乱れた服を直しながら私が言うと、元ちゃんは俯きながら頭を掻いて、
「…勇実、ゴメンな…大事にしたいのに…俺、ブレーキぶっ壊れてるよな…
…好きだよ…どうしようもないくらい…」
絞り出すように、言った。
分かってるよ。元ちゃんの気持ち、十分過ぎる程伝わってるよ。
好きだから、ダイジョウブ。
言葉にしない代わりに、元ちゃんの腰にギュッとしがみついた。
そんな私を元ちゃんは肩ごと包んで、最後に私の唇にキスを落とした。
「さ、帰るか」
私達はお互いを離さないように、固く指を絡め合って島を下りた。
…