〈改稿版〉traverse
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いっぱい歩いたから、さすがに展望台はエレベーターで登った。
「うわあ…っ」
今日は感嘆の声を上げてばかり。暗いオレンジから紺碧に変わる様子を見る事が出来た。ポツポツと町の灯りが灯りだす。
「はー、歩いた歩いた。疲れたなぁ」
下の売店で買ったアイスカフェラテをちゅーっと吸いながら、元ちゃんが言った。
「もー。だからエスカーで楽チンしたらって言ったのに。イヤだった?」
「…んなわけないじゃん…」
私の後ろから手すりを掴んで、私の背中にもたれかかる元ちゃん。
元ちゃんの息が私の耳を掠める…さっきの、囁かれたのを思い出して、頬がかあっと熱くなった。
気のせいかな、元ちゃんは、辺りが暗いと大胆になる。
「元ちゃん…人、いるってば…」
私達の他にも数組カップルがいる。おんなじような事してるけど、それでも恥ずかしい。
「んっ…ゴメン…そろそろ帰るか?」
「うん…」
元ちゃんの温もりがすっと離れて、ちょっと寂しいななんて、私ワガママなのかな。
またエレベーターで下に降りる。
「勇実…こっち…」
「あ…っ」
元ちゃんに不意に手を引かれて、死角になる物陰に身を潜める。
元ちゃんは後ろから私を抱きすくめて、灯台の壁にトンッと寄り掛かった。
…