〈改稿版〉traverse

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 生しらす丼のお店はすごく並んでいて、1時間待ちでやっと席に通された。

「ちょっと元ちゃん! これは私のでしょー? なんで勝手に摘まんでるのよー!」

「うん? 食べるのおっせーから、手伝ってやろうかと思って(笑)」

「味わって食べてるのに! 返しなさいよー! ばかー!」

「げふっ。オマエ本気で首絞めるなよ、ビックリすんじゃないかよ。
 分かったから、俺のサザエ焼きやるからな?」

「ふんだ、そんなんで釣られないもん。いただきます」

「ぎゃはは」

 ギャーギャー騒ぎながら、海の幸に舌鼓を打つ私達。

 席から見えるヨットハーバー、初心者でもヨットに乗れるというセーリング体験をやっている。

「でも、予約しないとダメなんだって。今度また来る時にやってみるか?」

「ふふ、約束だよ?」

 お店を出て、しばらくヨットハーバーのそばの段になっている所で腰を下ろして、お喋りをしていた。

「ヨットは無理だけどさ、遊覧船には乗ろうか? ほら、ここから、裏っ側に行ける。
 そんで岩屋の洞窟見てさ…てっぺんまで登るか」

 先ほど観光局の窓口から取ってきたマップを広げながら、元ちゃんは言った。

「えっ元ちゃん、こっちからのがいいんじゃない? ほらエスカー。
 元ちゃんおじいちゃんだから、楽チンしたいでしょ?」

「バカヤロー! 24をなめんなよ!?」

「あははぁ」

 大袈裟に拳を振り上げる元ちゃんから逃げようとしたら、後ろから抱きすくめられた。

 ビックリして固まった。元ちゃんも、こんな明るい所で突飛な行動に出た自分にビックリしたみたい、おんなじように固まった。

「…捕まえた」

 耳元で囁いた後腕を緩めて、また手を絡めて、スタスタと遊覧船の方へ歩き出した元ちゃん。

 引っ張られる形でついていく。顔を見せてくれないけど、元ちゃんの耳が真っ赤。

 私も、耳に熱を持っている。囁かれた方の耳を手で覆ったら、心臓が暴れている音と振動を感じた。





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