〈改稿版〉traverse

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「ストー…ッ」

 大声を出しかけて、慌てて口を塞いだ。典ちゃんの方へ身を寄せて、ヒソヒソと話を続ける。

「え…いつから? ダレなの、それ」

「ん…と、夏休みに入って、バイトのシフトを増やしてからかな…
 何かされたワケじゃないんだけど…バイトが終わって駅に向かう時とか…たまに本屋さんとかに寄ったりする時に…一定の距離を保ってだけど…ついてきてるみたいで…
 あのね…お客さんなの。入店したのは、勇実ちゃんがいない時の2回くらい…
 今日も来るのかなって…ちょっと怖くて」

「そうだったんだ…カレには、話した?」

「うん…心配してくれて。最近は、彼も夏休みだし、お店まで迎えに来てくれるんだ」

「うんうん。よかった、安心だね。
 それにしても、もう。なんなのソイツ。典ちゃんに怖い思いさせてさ…ばかじゃないの。
 典ちゃん、私がいる時に来たら教えてよね」

 ひとり憤慨していると、典ちゃんはクスクス笑って、

「うん、ありがと、勇実ちゃん。
 はあー、勇実ちゃんに話してちょっとスッキリしたぁ」

 と言った。少しでも典ちゃんに暗い顔をさせたソイツが、憎たらしいよ。



 ランチを終えて、勤務に戻った。仕事をこなし、私達の上がりの時間が近づく。

 その時、一人の男性客が入ってきた。

「いらっしゃいませー」

 私達が施術台のセッティングをしている所だったので、潤子さんが受付に立った。

 典ちゃんの動きが止まる。

「? 典ちゃん?」

 典ちゃんを見てビックリした。顔が真っ青…

「…勇実ちゃん…あのヒト…さっき話した…ついてくるヒト…」

 そう言って典ちゃんは、受付の方に背を向けてしまった。





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