〈改稿版〉traverse

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「え…いや…まぁ…ウン」

 彼はやっぱり分かっていた、俺がどんなに勇実を好きで、離したくないのかを。

「いや…キミが俺達にすごい気ぃ遣ってたの分かるし…
 あー、もー…情けねぇな。勝手にヤキモチ妬いて。バカみてぇ」

 はぁーっ、と大げさに溜め息をついてみる。

 そんな俺の様子に、樹深くんはフフッと含み笑いをして、こう言った。

「俺、好きですよ。元さんとイッサ。二人一緒なのを見ると、ほっとする」

 まただ。彼は勇実と同じだ。なんの考えもなしに、好きって言う。その素直さが、俺には眩しい。

「はは…そうか? じゃあ、まぁ…応援頼むわ」

「はい」

「あ、味噌はもう出せねぇけど…また、食べに来てよ」

「フフッ、はい。イッサがいない時に、おじゃまします」

「え? 別にそこまでしなくても…まじで、気ぃ遣いだよなぁ。
 いーよ、来たい時に来てくれよ」

 樹深くんはそれには答えず、ペコリと頭を下げて、この場を去っていった。

 彼の背中が小さくなっていくのをボンヤリ見つめていると、俺の後ろでガラッと引き戸が開いた。

「元ちゃん? 樹深くん、帰っちゃった?」

 俺の勝手なヤキモチだけど、出来ればもう、勇実の口から彼の名前を聞きたくなかった。

「うん。勇実…こっち」

「…ウン…」

 暗がりでも分かる、勇実の真っ赤な顔。

 勇実の手を握って、そっと裏口へ引っ張った。





 彼が、勇実を好きじゃなくてよかった。





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