〈改稿版〉traverse
82/171ページ
「え…いや…まぁ…ウン」
彼はやっぱり分かっていた、俺がどんなに勇実を好きで、離したくないのかを。
「いや…キミが俺達にすごい気ぃ遣ってたの分かるし…
あー、もー…情けねぇな。勝手にヤキモチ妬いて。バカみてぇ」
はぁーっ、と大げさに溜め息をついてみる。
そんな俺の様子に、樹深くんはフフッと含み笑いをして、こう言った。
「俺、好きですよ。元さんとイッサ。二人一緒なのを見ると、ほっとする」
まただ。彼は勇実と同じだ。なんの考えもなしに、好きって言う。その素直さが、俺には眩しい。
「はは…そうか? じゃあ、まぁ…応援頼むわ」
「はい」
「あ、味噌はもう出せねぇけど…また、食べに来てよ」
「フフッ、はい。イッサがいない時に、おじゃまします」
「え? 別にそこまでしなくても…まじで、気ぃ遣いだよなぁ。
いーよ、来たい時に来てくれよ」
樹深くんはそれには答えず、ペコリと頭を下げて、この場を去っていった。
彼の背中が小さくなっていくのをボンヤリ見つめていると、俺の後ろでガラッと引き戸が開いた。
「元ちゃん? 樹深くん、帰っちゃった?」
俺の勝手なヤキモチだけど、出来ればもう、勇実の口から彼の名前を聞きたくなかった。
「うん。勇実…こっち」
「…ウン…」
暗がりでも分かる、勇実の真っ赤な顔。
勇実の手を握って、そっと裏口へ引っ張った。
彼が、勇実を好きじゃなくてよかった。
…