〈改稿版〉traverse
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~side Hajime~
「樹深くん、ちょっといい?」
先に帰ろうとする樹深くんを、俺はきたいわ屋の前で呼び止めた。
勇実はまだ、中で帰りの支度をしている。この後の、俺との時間を承知しているはず。早く勇実に触れたい。
「はい」
樹深くんは振り返って、俺の前まで戻ってきた。
俺とたいして差のない背丈、大きくて真っ直ぐな瞳。
なんとなく、これから俺が言おうとしている事、見透かしているような気がする。
「あのさ」
俺はひと息入れてから、続けた。
「キミはどういうツモリか知らないけど。
…いや、多分、単純に楽しいんだろうな。
でも。
アイツと何かやるの、もうこれっきりにしてくんないかな。
キミに味噌をあげるのも…今日で最後な」
言い切ったら、嫉妬丸出しの自分が情けな過ぎて、俯いてしまった。
しばらくの沈黙の後、ちらっと樹深くんを見て、俺は驚いた。
…頭を下げている、樹深くん。
「ごめんなさい、元さん。
俺、無神経でした。
もう二度としないんで、許して下さい。
イッサの事も…責めないでもらえませんか」
…