〈改稿版〉traverse
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♪振るえ振るえ
♪僕らの心の旗
♪どんなに時間が経ったって
♪振り続けていたい心の旗
のっけから私と樹深くんの力強いハモリ、メインの旋律。
応援の旗を振れ→フレー、なんていう一説を拾ってきた私を、樹深くんはたいそう誉めてくれた。
短い間奏を挟んでからの、私のパート。どう考えてもいらないと思う私の感想を、樹深くんが無理矢理ぶち込んだ。
♪初めての野球観戦なんだよね
♪早く時間になれワクワクする
♪グッズもお弁当も買い込んで
♪まるでピクニックみたいだね
そして樹深くんのパート。入れなくていいと頑なだった樹深くんの思い出を、私が無理矢理ぶち込んだ。
♪懐かしい野球観戦なんだよね
♪小さい時にも来たっけ
♪全然変わらない雰囲気に
♪不覚にも泣いてしまいそう
ここで少し曲調が変わる。樹深くんと私が掛け合いで歌い、ハモりながらサビヘ。
♪ほら試合開始
(うねる声援)
♪知らない人同士だけど
(気持ちは一緒)
♪打ち上げられた真っ白い球に
(どこまでも飛んでけと)
♪心震わせ祈りを込める
♪さあ旗を振るって風を起こそう
♪振るえ振るえ
♪僕らの心の旗
♪どんなに時間が経ったって
♪振り続けていたい心の旗
少し長めの間奏の後、もう一度、今度は私、樹深くんの順で掛け合い。
♪うわ こっちに飛んできた
(うっそまじで?)
♪大人げないけど手を伸ばす
(捕れるかも?)
♪掴んだのは空気だけ
(ちょっとー!)
♪やった! と手に入れたあの子は
(顔をキラキラさせて)
♪その球に夢を詰め込むんだろう
(だってそうでしょ)
♪昔の僕もそうだったんだ
♪へーっそうだったんだぁ!
終盤のサビに向けてギターの音色がどんどん力強くなっていく。
私と樹深くんは一度顔を見合わせて、目配せをしてから最高潮に歌い上げた。
♪振るえ振るえ
♪僕らの心の旗
♪どんな大雨に見舞われたって
♪どんなにずぶ濡れになったって
♪いつかは晴れるいつかは乾く
♪振るえ振るえ
♪僕らの心の旗
♪どんなに時間が経ったって
♪大丈夫変わらないものだってあるから
♪振り続けたい心の旗
♪振るえ振るえ
♪心震わせながら
♪フレー…hurray
…ぶっちゃけ、聞き手の事を考えずに、自分達が詰めたいだけ詰めた、何が言いたいんだかよく分からない歌に仕上がったと思う。
でも。
ジャーン、ジャカジャン、と樹深くんがギターを撫でて締めると、わっ! と歓声と拍手が上がった。
思いもしなかった光景に目を丸くしていると、横から樹深くんが私に手を差し伸べていた。
乗せるの? 私は自分の手をおずおずと伸ばす。
すると樹深くんはその手の縁を優しく掴みながら高々と上げて、スッと後ろへスイングさせた。
拍手喝采をしてくれるお客さん達に、お辞儀をしたのだった。
…